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キスの途中で頭の片隅にあの人のことを思い出す。
きれいな夜会巻きにした黒髪、ほんの少しだけ見えた横顔は楽しそうに笑っていた。
上田さんは、何も言わない。
……でも、今は。
彼はここにいる。
彼のワイシャツの胸元をぎゅっと握って、キスを続ける。
唇を舌先でなぞり、舐めあって、唾液を混ぜあい、それを喉に流し込む。
どれくらい時間がたったのかわからないくらい長いキスをして唇が離れたとき、目を開けたら彼の濡れた唇が目に入った。
「……やっぱり、カーテンして」
彼の唇を見つめたままそう言うと、その唇の両端が少し上がる。
彼は私のことを見せつけたいって言うけど、私は……誰にも、彼を見せたくないって思った。
誰にも見せないで、私だけの人。
そんなことできるわけないし、しないけど。
抱き合った腕を一度離して、彼がカーテンを引き、私はベッドのそばに立つ。
「脱がせても?」
彼が私に向かって立ち、そっとやさしい笑顔を見せる。
「うん」
私の返事を聞いてから、彼は私を抱き寄せて、私の首の後ろに手を伸ばしてリボンの端を引く。
しゅる、とかすかな衣擦れの音を立ててリボンがほどけて、前身頃がゆるむ。
「あれ、ペンダントしてたんだ?」
「うん」
ワンピースの下に隠れて見えないけど、私の胸元には誕生日にもらったペンダントがあった。
彼の手が背中をたどって腰のファスナーをゆっくりと下ろすと、それ以上のことは何もしなくてもそれ自体の重みでワンピースは静かに床に落ちて、私は黒いレースのショーツ一枚の姿になった。
「……きれいだ」
「あ……ありがと」
背中を撫でた手が肩を撫で、ペンダントをたどって裸の胸元に触れる。
「ん……」
鼻先がこすれあい、額を合わせて、ふたりで少し笑って、唇が重なる。
キスすること、肌に触れられること、身体を重ねることが、うれしくて。
さっきまでの小さなモヤモヤも消えてしまう。
「ふふ」
ふたりでベッドに倒れこみながら、声を出して笑ってしまう。
「どうした?」
「んー、うれしいなって」
私は彼の首に腕を回して引き寄せる。
「こうやって、一緒にいられるの、うれしい」
「そうだな、僕もだ」
「ほんと?」
「うん」
ふわりふわりと唇を触れ合わせて、私の頬に、耳に、唇で触れていく。
「んん……あ……」
耳の外側を丸くなぞって、ピアスひとつひとつにキスをして、耳たぶを軽く食む。
彼の手のひらと指先がするすると胸からおなか、腰を通って脚のつけ根、腿を撫でてまた上へと、身体の上をすべる。
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