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「そうよー、メイクもほんと素敵よ」  プロデュースしているコスメブランド『blossom』も色合いがとても素敵なのは知っている。  だけどあえて彼女のことを調べるようなことはしなかった。 「そうなんですね……」 「……もう二年くらいになるのかなー。まあ、原因っていうのは私にもわからないんだけどね。仕事のことだけなのか、それ以外なのか? そんなに聞いてないし」 「あ、うん、そうですよね」 「なっちゃんは聞いてるの?」 「ううん、聞きにくいですよね、そういう話。……でも、つきあってると少し気になったり」 「そうねぇ。なんかわかるかも。でもわたしよりもちゃんと本人に聞いた方がいいかもね」  前に事務所の佐々木社長もそんなふうに言っていたっけ。 「うーん、そうですよね」  そのとき、スタジオに和音ちゃんが 「おはようございまーっす」  と大きな声で挨拶をしながら入ってきた。 「ちょうど、かわいい顔のできあがり」  少しいたずらっぽい顔で笑う佐藤さんが鏡の中の私の後ろに映る。 「ありがとうございます」  和音ちゃんにももう上田さんとつきあってると思われてるし今は隠してないけど、上田さんのプライバシーな感じもするから、内緒と言うように口の前に指を立てたポーズをしてから、鏡の前から離れた。  ヘアメイクも着替えもできあがってカメラの前に行くと、上田さんが 「あれ、ずいぶんと雰囲気変わったな」  と笑う。 「うん、普段着と全然違うよね」  私はワンピースのスカート部分をつまんでひらりと動かしてみる。  季節としては本格的な夏はまだだけど、撮影するものは晩夏ものも減ってきて秋物になりつつある。  今日は秋の初めのワンピース特集ということで、普段着よりは少しフォーマルなワンピースが多いらしい。  髪は編んでまとめてリボンの飾りをつけて、レトロな幾何学柄のロングワンピースを着ていたけど、普段はこんな服装はしないから全然変わって見えるはずだ。  今使うセットは窓辺にアンティークな雰囲気のソファが置かれていて、吊り下げられたサンキャッチャーがキラキラと反射して部屋のあちこちに小さな虹を作っている。 「なっちゃん、普段はほんとラフなかっこだもんねぇ」  と、私と同じに準備ができてカメラの前に来た和音ちゃんが笑う。 「日向さんソファに座って、和音ちゃんはその隣に立ってみようか」 「はーい」  おしゃべりしながらだけど、上田さんやスタイリストの鍵谷さんの指示は何度もあるし、その間もずっとカメラのシャッターの音が聞こえている。 「うん、でもこういうのってよっぽどのパーティでもないと着なくない?」  ワイン色のレトロな幾何学柄が施されたブラウスワンピースはてろんと柔らかくて着心地は悪くないけど、襟元のリボンがかわいらしすぎる気がして、自分ではなかなか選んで着ないなあ、と思う。 「そんなことないよぉー。ちょっとしたお出かけで着ても大丈夫だよ」 「和音ちゃんはワンピとかスカート多いもんね。あたし、こういうのはいつ着たらいいか、わかんないんだよね」  モデルやってるくせに、と言われちゃうと困るんだけど。  中高生の頃は部活に明け暮れてたからジャージしか着てないような状態だったし、もう少しおしゃれにしたいと思いつつも、どうしたらいいのかわからない。 「デートとかで着ればいいじゃん」 「こういうの着てデート……どこにデートしに行くんだろ?」  と和音ちゃんに言うと、カメラの向こうで咳払いが聞こえてきて、何人かのスタッフさんがくすくすと笑う。 「まださ、あんまり東京で遊んでない感じするわー、なんか最近忙しくなってきたし」 「じゃ、今度こういうの着てアフタヌーンティーにでも行こ」 「え、いいねー」  あと二か月で『mii』の専属モデルも契約満了になって、専属継続って形もあるけど、社長と相談した結果、専属は卒業してフリーでモデルの仕事をすることになった。
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