夏の夜、宴のあと

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 みんなからもらった花束やプレゼントのショップバッグを両手に抱えて、終電ギリギリに飛び乗った。  頭にはパーティのはじめに載せられた花冠が載ったままだ。  お酒を飲んで駅で走ったから少しくらくらと目が回るけど、とりあえず立っていることは大丈夫そうだ。  安定感のあるウェッジソールとはいえ、ヒールの高いサンダルでも走れるくらいにはなって、それなりに私も成長してるのかな、なんて思いながら、まだ明かりのたくさんついたビルの景色が流れていくのを見ていた。  電車を降りて駅の改札を出たところで、スマホが鳴った。 「えっ……上田さん」  あわてて通話ボタンを押す。 「もしもし?」 『なつ』  自分の名前が何か特別な言葉のように聞こえる。  低くやさしく、耳の中に響いて溶けた。 「うん」  なんだかまた酔いが回ったように思えて、私は立ち止まって目を閉じて、短い返事しかできない。 『遅くにごめん』 「ううん、今、帰り。駅についたとこ」  タクシー乗り場に近づいたところだったけど、やっぱり少し離れて駅の壁際に立った。 『そうか』 「もしかして、仕事、今終わり?」  もう日付けが変わってしまっていた。 『そう、今終わり』 「おつかれさま」 『ありがとう』 「さっきね、シャンパン飲んだよ。美味しかったけど、終電乗るのに走ったらちょっと酔っ払ってる」  と言うと、少し笑う声が聞こえた。 『なつ』 「ん?」 『……今から、会いに行ってもいいかな』 「え、え、今?」 『ごめん、待ってて。二十分くらい』  車のエンジン音が聞こえる。 「え、ほんとに?」 『……やっぱり、会いたくて。なつに』  その言葉だけで涙が出そうになるくらい、胸の奥があたたかくて、痛い。 「……うん、待ってる」  私に会いたいって言ってくれるその言葉を、その人を信じようと思う。  彼が言っていた時間よりも早く、見慣れた車が駅前の車寄せに入ってくる。  歩道に出た私のそばぴったりに止まって、助手席の窓が開いた。 「乗って」 「うん」  すぐに助手席に乗り込んで、ほっと息をついた。 「えーと、こんばんは」  なんて言ったらいいかわからなくなって、とりあえず挨拶をしたら、隣でくすっと笑う。 「遅くにごめん。誕生日は過ぎちゃったし」 「えっ、ううん、全然。明日は午後からだし」 「確か僕が撮影」 「あ、そうだ。明日会えるって思ってたのに」 「ま、もう今日だけど」 「でも、早くに会えたね」 「なつ、荷物多いな」  と、私の手元から紙袋を取って、後ろの座席に置く。 「うん、なんかみんないっぱいくれて。すごく楽しかった」 「そっか」  信号で止まったときに、私の頭の上に手を伸ばして、花冠を取った。 「かわいい、これ」  そしてもう一度花冠を私の頭に乗せる。 「だよねー。和音ちゃんが注文して作ってくれたんだって」 「なつに似合うもの、わかってるな」 「あー……そうだねぇ」  さっき和音ちゃんと話したことを思い出す。  うまくいくように祈ってるって言った彼女の笑顔を思う。 「いい友達いて、良かったな」 「うん、ほんと、そう」  私の気持ち……いいものも良くないものも、隣の人に全部伝えたら、それでもそばにいてくれるかな。
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