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「マサヤさんには関係ないじゃないですか」
「へえー、ああいうのがタイプ?」
そうだとも違うとも言ってないのに、どうしてそう勝手に話を進めるのかよくわからない。
「俺も髪伸ばそっかなぁー、どう思う?」
「え、いや、わかんないけど……」
「あの人、うちの本にも撮影来るよ」
「えっ……」
「ふーん、そうなんだー」
マサヤは上田さんが行った方向を見てニヤニヤと笑う。
「なっちゃん、行こうか」
和音ちゃんが助けてくれるように私の腕を引くから、それについて行く。
「あ、うん、じゃあ」
と、マサヤからは離れようとしたとき、
「なつちゃん、おもしろいな」
「なんで」
マサヤの声に思わず振り向くと、ニヤニヤと笑うマサヤの顔が目に入って、少しイラっとする。
整った顔立ちではあるし、人気があるらしいんだけど、私にはなにかが受けつけない感じ。
「俺、すっげーなつちゃんに興味あるんだけど」
「あたしはないです」
「まあまあ、またあとでね」
と言う声には返事をしないで、和音ちゃんと広い控え室の反対側へ向かった。
「なにあれ、世の中みんな自分に興味あると思ってんの?」
和音ちゃんとふたりで控え室の隅にあった自販機でアイスティーを買って壁に寄りかかる。
半分くらいまで一気に飲み干して、はあっと大きくため息をついた。
「なんかね……ちょっと、だいぶ、苦手なタイプで。当たり悪かった感じ」
あとでまたあの人と一緒になって手を繋いで歩くなんて、仕事とはいえストレスになる。
「顔はいいけどね、顔は」
「まあ、そうかもねぇ」
「あたしの相手は全然、彼女の話ばっかりされたよ」
と、和音ちゃんは肩をすくめた。
「それはそれで、どうなの」
とふたりで笑った。
「まあ、上田さんに会えたからいいや」
「あらやだ、ここにも彼氏のことばっかりな人が」
と、大げさに驚いた顔をして、笑う。
ひとり面倒な人には会ったけど、上田さんの顔も見られたし和音ちゃんとはこうやっていっぱい笑って、さっきまでの緊張はほぐれたように思えた。
「でもそう言えば、上田さんがなつって呼ぶのはじめて聞いたかも」
「あっ、やっぱりそうだよね? あたしも人前で名前呼ばれたの、はじめてな気がする」
「ふーん……なんかさ、すっごいやさしく呼ぶんだね」
なんて言って、肘で私をぐいぐいと押す。
「や、そ、そうかな……」
改めてそんなふうに言われたら、かなり照れくさい。
「うん、全然、ラブラブじゃんか。こないだは心配したけど」
「あ、あのときは、うん、ごめんね。ありがとう」
「良かったねぇ、なっちゃん」
と、和音ちゃんはふんわりと柔らかい笑顔を見せた。
「和音ちゃん……」
「うん、さ、がんばろ。そろそろメイク室行ってもいいかも」
と、携帯電話で時間を確認する。
指定された時間にはあと十分ほどだった。
「行くか。がんばろー。なんか部活みたいだ」
「あーわかる」
と、和音ちゃんと軽くグータッチをして笑って、メイク室に向かった。
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