忘れられない夏になる

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 メイクを終えて、同じ雑誌のメンバーでステージ脇に集まる。  今はまだ私たちより少しお姉さん雑誌が主催するショーが行われていて、ハルちゃんや事務所の先輩のユキさんが出演していた。  ステージ脇は、大変な有り様だ。  男性がいようが関係なく、順番に大急ぎで着替えてはステージを闊歩していく先輩たちを、私たち新人はポカンとして見ていた。 「……すっごいね」  リハーサルもしたけど、やっぱり本番はお客さんの熱気で雰囲気が違う。 「でもちょっと、緊張通り越して楽しくなってきた」 「うんうん」 「早く出たいよね」  そのとき、ステージの反対側にカメラを持った上田さんが目に入った。  その瞬間、彼と目が合う。  バタバタしているステージ脇でタイミングよくモデルたちを撮らなきゃならないんだから、こっちに意識を向けてる場合ではないはずなんだけど、それでも目が合った瞬間、私に向かってちょっと笑顔で親指を立てて見せた。  大丈夫、って言ってくれてるんだ。  だから私は彼に向かって大きな笑顔とピースサインをして見せると、小さく手を振ってステージ脇の奥に消えていった。 「はー……、なっちゃんマジ愛されてるよね」  かのんちゃんがうっとりとした表情でため息をつく。 「えっ、いや、うん、いや」 「なんだよ」  と、和音ちゃんは肘で小突いてくるけど。 「いや、なんか、だってさあ、どう返事したらいいかわかんないじゃん」  と言いながら、私のステージも撮ってくれるのかな、と期待しはじめる。  その時、音楽が変わってハルちゃんやユキさんたちが全員でステージに向かうのが見えた。 「あ、もう終わりそう」 「次だね」  観客席に向かって手を振りながら長いランウェイを歩いていくユキさんの後ろ姿を思わず見つめてしまう。 「ユキさん素敵だなぁ……」  スタイルがいいのはもちろん、堂々とランウェイを歩く姿がとても美しくてかっこいい。 「うん、やっぱりオーラ違うわ」  今、日本で活躍してるモデルの中でトップレベルの人だもん。  海外のショーにも出てるくらいだから、ランウェイは歩き慣れてるんだろうなぁ、なんて思いながら見惚れていると、後ろから私たちの雑誌の編集長が呼ぶ声が聞こえてきた。 「さあ、すぐにこっちの出番ですよー!」 「はぁい!」  三人で返事をして振り向くと、モデルやスタッフがもうみんな集まっていた。 「わ、すいません」 「大丈夫、先輩のステージも勉強になるから観ておくのは大事ですよ」  と編集長が笑顔で話す。 「さて、ついに本番です。いいステージになりますように、みなさんよろしくお願いします!」 「よろしくお願いします!」  みんなで大きな声をかけて、気合いを入れた。  着替えはじめたところで、ステージから下がってきたハルちゃんが入ってくる。 「ハルちゃんお疲れさま!」 「ありがとー! みんなもがんばって!」  ハルちゃんは私たちのショーの後半に出演することになっている。  すごく忙しいと思うけど、華奢な細い身体からは想像もつかないくらいパワフルだ。 「あとでね!」 「うん、あとでー!」  一度控え室に戻るハルちゃんを見送って、ステージ脇ではスタイリストさんとメイクさんが私たちの服や髪を整えてくれる。 「緊張してる?」 「うん、すっごい……手に汗びっしょりです」 「大丈夫、みんなとっても素敵だから。楽しんで!」  と、肩を叩かれて、眩しいくらいの派手な照明に照らされたランウェイに向かった。
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