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「なつ?」
「あっ、はい」
「どうした、ぼーっとして」
「いや、ほんと、上田さんかっこいいなって思って」
と言うと、彼は困ったように苦笑いする。
「何言ってんの」
そして大好きと言いそうになって、さすがにそれはバカップルのようだから、それは飲み込んだ。
そのとき、上田さんの後ろから
「おつかれーっす」
とマサヤが顔を出した。
「こんなとこにいたんだ、なつちゃん」
マサヤはフォーマルスーツのスラックスを腰に落としてシャツの裾を出している。
襟元のボタンもかなり開けて、ネクタイはしていなかった。
「あー……おつかれさまです」
「なっちゃん、顔、顔」
と隣から和音ちゃんが小声で笑うけど、ちょっと疲れてるのもあって明らかに嫌そうな顔しかできない。
「あ、上田さん、オレとなつちゃんのツーショット撮ってくださいよー、今回の記念に」
「あー、まあいいよ」
良くないよ! と言いそうになるけど、ぐっとこらえる。
これも仕事だ。
ため息をついてから座ってた椅子から立ち上がると、十センチのヒールを履いてるぶんもあって私の方がマサヤよりだいぶ背が高くなっていた。
と言うか、上田さんと同じくらいか。
それを見て和音ちゃんとかのんちゃんがちょっと笑う。
「なっちゃん、でかい」
「やだ、しょーがないじゃん」
もともと私たち三人の中でも私が一番背が高い。
モデルの仕事をしてやっとそれもいいかなって思えるようになったくらいだ。
「まあまあ、撮るよ」
「はーい」
とその瞬間、マサヤが私の肩に手を回す。
「ちょ……」
上田さんはシャッターを押してから、
「なつ、顔……」
とカメラの液晶画面を見ながら苦笑いする。
「まー、しょーがないよね」
と和音ちゃんが笑った。
そのとき、
「マサヤくんですよね?」
と、ふたりの女の子が声をかけてきた。
モデルなんだと思うけど、私は一緒の仕事になったことがない人だった。
「あ、うん、どうも」
マサヤはやっぱりその女の子たちをじっくりと見てから、笑顔を作った。
「じゃ、僕はまだあっちの方も撮らなくちゃならないから」
上田さんがそれを横目に、少し困ったように笑った。
「はーい、おつかれさまです」
と、上田さんが離れるのを見送った。
「あたしたちも行こ」
と、和音ちゃんが私の手を取った。
「え? あ」
「あっ、なつちゃん、今度遊ぼうよ、みんなでさ」
後ろからマサヤが言うけど、私が何か言う前に
「んー、暇だったらね。じゃっ!」
和音ちゃんがそう言って、私とかのんちゃんを引っ張って会場の中央に向かった。
「なになに、なんかあるの?」
昼間は一緒にいなかったかのんちゃんは状況を把握してなくて、和音ちゃんとマサヤを交互に見ている。
「ちょっとね、なっちゃんに絡んでくるんだわ」
「えーマジ? なんで?」
「なんでかわかんないけど……そんな気はこっちにはないんだけど」
「彼氏持ちって聞いて、やる気出しちゃったみたいよ」
「あー、あの人けっこう女癖悪いって噂は聞いたー」
かのんちゃんは険しい顔をしてマサヤを見たけど、向こうはなんとも思ってないふうで、他の女性モデルに声をかけていた。
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