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「やっぱりそういう人なんだろうねぇ……」
大きくため息をついたところで、テーブルに並んだグラスが目に入った。
「飲もっか」
「あ、うんうん。いいね」
ドリンクが並んだテーブルに近づくと、スタッフの人が好みのものを用意してくれる。
「なんか食べる?」
中央のテーブルにはきれいに盛り付けられたピンチョスなどのオードブルが並べられているけど、
「あたし、さっき控え室でおやつ食べすぎちゃって……」
「置いてあると食べちゃうよねー」
「えっ、そんなのあったっけ?」
私は食べそこねておなかが空いていた。
「なっちゃん食べなよー、あんまり手ついてないみたいだし」
「じゃあ、いただくわー」
お皿にピンチョスを三つ取ったところで、バッグの中でスマホが振動するのを感じた。
「わ、電話。メールかな?」
「持っててあげるよ」
と和音ちゃんとかのんちゃんが私のグラスとお皿を受け取る。
スマホを出して見ると、上田さんからメッセージが届いている。
『今日このあとどうする予定?』
「んん?」
キョロキョロと周りを見回したけど彼の姿は見えなかった。
『パーティ終わったら帰るよ。』
と返事をすると、すぐに
『部屋取ってるんだけど、泊まっていける?』
「はい?」
思わず声が出てしまって、
「なっちゃん、どうした?」
と和音ちゃんが不思議そうな顔をした。
「あ、ううん、大丈夫」
もう一度周りを見るけど、やっぱり彼の姿は見えない。
着替えなんかは、今はクロークに預けている荷物でなんとかなるだろう。
『一緒にいいの?』
と送ると、
『いいよ。』
と返ってくる。
そして、
『終わったらロビーで待ってて。』
というメッセージがすぐに送られてきた。
『はーい!』
と送信して、また会場を見回したら、やっと携帯電話の画面を見ている彼を見つけた。
そしてすぐに顔を上げて、私を見た。
目が合うとちょっと微笑んでくれた。
「なっちゃん?」
「あっ、あ、ごめん、ありがとう」
目が合うだけでうれしくて胸がいっぱいになっちゃうのは、ちょっとばかみたいだろうか。
それでも私の顔はニヤけてしまって、和音ちゃんが変な顔をする。
「なによ、上田さん? いいの?」
「うん、まあ。大丈夫」
携帯電話をバッグに入れて、お皿とグラスを受け取る。
もう一度上田さんがいた方向を見ると、人の間に少し頭が出るような感じで彼がいるのがわかる。
だいたいのスナップの仕事は終わったのかな、と思ったとき、彼のそばに小柄な女性がいるのがちらっと見えた。
きれいな夜会巻きの黒髪が見える。
人の間から、笑顔の横顔が見えた。
上田さんの表情はよく見えない。
こんなに人が多くて、普段よりも大きな声で話さないと聞こえないくらいなのに、自分の心臓の音が聞こえてくるようだった。
「なっちゃん、どうしたの?」
「うん、……いや、ごめん、大丈夫」
「疲れたー?」
「あー、いや、大丈夫。ごめん、ぼーっとしただけ」
大丈夫って、言ってたから。
あとで、ふたりで会えるんだから。
気にすることないよ。
……って、わかってるのに。
こんなに胸の中がざわざわするのはどうしてだろう。
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