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正直、中学高校と女子校で、あまり男の子と接する機会がなかったせいか、友達としてもどんなふうに話したりするといいのかよくわからない。
東京に来る前に初めてつきあったモデル仲間の男の子とも、うまくつきあえなくて三か月くらいで『つまんねー女』とか言われて別れてしまったくらいだし。
なんとなく、マサヤはそのときの彼と少し似ていて、余計に私は警戒してしまうんだ。
上田さんは全然そんなことなくて……穏やかな雰囲気がよかったのかな。
警戒どころか、わりと簡単に体も許してしまったりしたけど。
他の人にとっては一歩引いているような部分が、私にはちょうどよかったのかもしれないな。
「……会いたいなあ」
あのショーの日の夜に抱き合ったあと、ふたりで一緒に眠って、朝になってまた抱き合った後、その日一日ふたりで過ごした。
それからまだ何日もたってないし、昨日だって電話で話したのに、またすぐに会いたいって思うのは、ちょっと重い女って思われちゃうだろうか。
そしてやっぱり、あの人のことを考える。
越原さくらさんは、どんな人だったんだろう。
今、あの人は彼のことをどう思っているんだろう。
遠くから見えた笑顔のその前には彼がいた。
どんな顔であの人と話していたんだろう。
『全部知っていたいと思うのは、身勝手かな』
とこの前抱き合いながら彼が呟いた言葉を思い出す。
彼のことを全部知っていたいと思うのは、私の方だ。
こんなに、頭の中は彼のことでいっぱいで、ほんとうはいつでもそばにいたいと思うくらいだけど、でも、そんなことできないってわかってる。
「わかってるんだけどさ……」
恋って、うれしくて楽しくて、せつなくて苦しい。
そんなの、彼とつきあうようになってはじめて知った。
上田さんへのメッセージを送る画面を出して、少しためらってから、
『起きてる?』
とメッセージを送る。
そのまま画面を見ていたら、通知音とともに、
『起きてるよ。』
とメッセージが届いた。
『お話ししていい?』
と送ると、今度は着信音が鳴った。
あわてて起き上がって、その勢いでベッドの上に正座する。
「もしもしっ?」
『どうした?』
「ん、んと、ちょっと、声聞きたくなって」
『そうか』
「あ、社長が、あのイメージモデルの仕事ありがとうって言ってた」
『いや、ちょうど募集したいって話だったし、なつに似合いそうだと思ったし』
広告ポスターを頼まれたって話で、私を推薦してくれた。
『なつと一緒の仕事を作れて、良かったよ』
「ほんと?」
『うん』
「あたしも、すごく楽しみ。……あ、あのね」
『うち来たいって?』
思っていたことを言い当てられて、びっくりする。
「え、や、あーっと、……うん……会いたかった、な、と」
それでも素直に返事をすると、くすくすと笑う声が聞こえてきた。
『もう電車の乗り換え厳しくないか?』
「うーん、そうなんだよねぇ」
終電にはギリギリで間に合うとは思うけど、今から着替えて出かけるのはちょっとためらわれる時間だ。
『明日は?』
「朝から夕方まで」
午前と午後で別の撮影が予定されていた。
そして明後日の仕事が上田さんとの撮影になっていて、明後日まで待てば彼には会えるんだけど、でも仕事で会うのとプライベートで会うのとはやっぱり違うから、明日会えるなら明日会いたい。
『じゃ、そのあとおいで』
「いいの?」
『だめならだめって言うし』
「そっか。じゃあ、そうする。……ありがとう」
『どういたしまして。仕事終わりの時間がまだちょっと読めないんだけど、明日連絡するんでいいか?』
「うん、大丈夫。メールしといて」
『わかった。……じゃあ』
「うん、おやすみなさい」
『おやすみ』
通話を切るのは、私から。
もっと声を聞いていたい気持ちもあるけど、明日が楽しみになったから。
……こんなに好きで、面倒に思われないかな。
ちょっと心配になるけど。
「……まあ、いっか」
明日会えることを考えたら、自然と笑顔になってくる。
私はとっても単純だ。
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