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……楽しみにしてたはずなのに。
どうしてこうなっちゃったんだろう。
ひとりで大きなため息をつく。
終電も逃してしまったこの時間、外にいるのは少し肌寒い。
Tシャツから出た腕を軽くさすった。
あのグループのことは言わない方が良かったのかな。
暗い夜空を見上げてまたため息をついて、今さっきの上田さんとのやり取りを思い返してみる。
昨日の約束どおりに少し遅めの時間に待ち合わせて、ふたりで食事をしてから彼の家に行った。
食事の時や家で、ここ数日のことを話していたけど、例のメッセージのやり取りのことは、家に行ってからだった。
「しかたないだろ? 仕事関係なんだし?」
上田さんの反応は最初はあっさりとしたものだった。
「まあ、そうなんだけど……ちょっとあの人苦手で」
「ああ……マサヤか」
と言って彼はちょっと眉間にシワを寄せる。
「なんか、ちょっと……うーん、なんていうか」
彼氏にあたる上田さんに対して、どう説明していいかむずかしい。
「何?」
「……こういう言い方は変かもしれないけど、あたしのこと興味あるとか、言ってきて」
「知ってるよ」
ちらっとこっちを見ただけで、知らんぷりって顔だ。
「えっ……え……それだけ?」
こっちは言葉選びに悩んで、でも困ってることを正直に言ったつもりだ。
知ってるならどうしたらいいかとか、何かあっても良さそうなものだと思うけど、そんなことを言うわけでもなく、……知らんぷり、というのがぴったりくる顔をしている。
「なんて言えばいいんだよ?」
「うーん、でも、なんか」
なんか、腑に落ちない。
「何、モテ自慢ってこと?」
その言葉にカチンとくる。
「何それ、なんかその言い方、感じ悪いな」
「……別に」
全然、私のことなんか見ないでいる。
「あたしからなんかしたわけじゃないし、むしろあの人苦手なんだけど」
「わかってるよ」
「……なんか、感じ悪い」
「普通だよ」
なんて返事しながら、あたしの方はずっと全然見ないし、自意識過剰かもしれないとも少し思うけど、なんだかおかしい。
「全然普通じゃないじゃん」
普段出すことのほとんどないプリントした写真の箱を開けて整理なんてはじめてる。
「……あたし、今日は帰るかな」
それでも、彼はこっちを見なかった。
「……帰る」
一旦置いたバッグを拾って、立ち上がる。
「……なつ」
そこでこっちを見たようだったけど、ほとんど同時に私は彼に背中を向けたから、目は合わなかった。
リビングから出て玄関に行っても追いかけて来るわけでもなく、声をかけてくるわけでもなく。
スニーカーを引っかけて外に出た。
大きくため息をついて空を見上げたら、真っ暗な中に小さな星がいくつも瞬いて見える。
住宅街のこの辺りはもう歩いている人もいなかった。
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