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駅の方向に向かって歩く。
昼間はまだ夏の暑さだけど、夜は少し涼しく感じるようになってきた。
今の時間はまだ電車あるよね、と思って携帯電話の時計表示を見ると、
「えっ、もうこんな時間」
思わず声に出して呟いてしまうくらいに、電車があるかどうか微妙な時間だった。
上田さんの家に行ったときはだいたい泊まるし、泊まらないなら車で送ってもらってたから、ここから出る電車の時間はよく覚えていなかった。
少し早足になって、それからだんだんと駆け足になっていく。
線路沿いの道に出た途端、目の前を電車が通り過ぎた。
「えー、これ最後?」
息を切らせて駅に着いた時には、電車を降りた人もみんなホームから出て、明かりが消えたところだった。
「どーしよう……」
タクシーに乗ったらいくらくらいかかるんだろう。
今日はお財布にはそんなにお金入れてない。
飛び出すように家を出てきちゃったことを後悔しはじめたけど、だけどやっぱり私はそんな悪いこと言ったりしてないはずだって気持ちの方が大きくて、上田さんの態度を思い出したらまた腹が立ってくる。
「なんであたしがこんなことになってんのよ……」
途方にくれて歩道の段差に座り込んだ。
こんなふうに、気持ちが離れちゃうのかな。
きっかけなんてささいなことでも、そのまま離れちゃうってことも、たぶんある。
そんなふうになっちゃうのは、嫌だな。
でも、私の気持ちだけのものじゃなくて、ふたりの気持ちのことだから。
ずっと前に、上田さんにさくらさんと別れたことを聞いたとき、
『お互いの気持ちのバランスが違ったんだろうな』
って言っていたことを思い出した。
今の私たちのバランスは、違っちゃうのかな。
そのうち、駅構内の明かりも消えて、街灯だけに照らされた暗い夜道に変わる。
コンビニもすぐ近くにあるけど、ちょっと角で遮られて明かりはここまで届かない。
よく夜にも歩く場所ではあるけど、いつもは上田さんが一緒だし、ここまで遅い時間にひとりきりにはなったことがなかった。
意外と暗くなるんだな。
そう思うと、とたんに不安な気持ちが広がっていく。
あまり使いたくないけどカードを使えるタクシーに乗ろうか、と思ったときに、目の前に人が立ちふさがった。
「あれ、女の子ひとり?」
「終電逃した? 俺らとどっか行かない?」
顔を上げると、私と同じくらいの年と思う、男性が二人。
ただでさえ気分が悪いのに、こんなところでナンパとか最悪だ。
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