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 目が覚めたとき、上田さんは上半身を起こしてクッションを背にして携帯電話を見ていたようだった。 「いま、何時?」 「一時ちょっとすぎ。ごめん、眩しかった?」 「そういうわけじゃないけど、寝ないの?」 「寝てたんだけど、ちょっと目が覚めたんだ」  と少し首を傾げる。 「そっか……」  時々、彼の家に泊まるようになって、そして彼が夜中に目が覚めてしまって眠れないことがあるということを知った。  たまにだよと笑うけど、そんなこと普通あるんだろうか。  私は朝までぐっすり寝られるタイプだし、たまに夜中に目が覚めてもすぐに寝ることができる。  今だって、私は寝ようと思えば三秒くらいで寝つくことができると思う。  だから私は手を伸ばして彼を引き寄せて、両手で胸に彼をぎゅっと抱きしめる。 「なつ、ちょっと、苦しい」 「これでいいの」  タンクトップ一枚だけの私の胸の、人の体温とか心臓の鼓動とか、少しでも安心できるもので彼を守りたい。  あの日から、二か月が過ぎた。  その間、何度かこうして彼の家に泊まるようになった。  私たちにはもっと一緒に過ごす時間が必要だと思ってる。  抱きしめた腕を少し緩めたら、彼は私を見上げて少し笑う。 「寝よっか」 「うん、寝よう。……このまま?」 「うん、このまま」 「そうか。おやすみ、なつ」 「おやすみなさい」  ふんわりとした彼の髪が胸元をくすぐって、その感触が眠気を誘う。  ……まだ、痛むのかな。  私が治してあげられたらいいのに。  そう願いながら、眠りに落ちていく。 「なつ、朝だよ」  おでこをぺちぺちと軽く叩かれる感触で呼び起こされる。 「……もうちょっと……」 「だめ、遅刻する」  その言葉に目をパチっと開けた。 「……あ、仕事だ!」  がばっと起き上がると、すぐ隣で彼が笑う。 「車で行くから、コンビニ寄って朝ごはんとコーヒー買おう。顔洗って支度したら行こう」 「はいはい! ……あ、おはようございます」 「おはよう」  ちょっと笑って、私の頭をくしゃっと撫でた。  ベッドから出て階段を降りながら、目をこする。  まだちょっと眠い。  今日はスタジオ撮影だけど、一軒家の古い洋館のスタジオで自然光を使っての撮影をするから、それには朝早い時間から集合して撮影に入るって話だった。 「化粧すんの?」 「しなーい」  顔を洗ったらスキンケアはちゃんとするようにしてるけど、それに日焼け止めを塗る程度だ。  でも、今はもう朝早くても日差しが強いし、日焼け止めは絶対しっかり塗って帽子もかぶるようにと社長から何回も言われている。 「じゃ、先に洗面所使うかな」  彼は髪を無造作にかき上げて、あくびをひとつ。 「うん」  ソファに座った私の頭をぽんぽんと撫でて、彼が先に洗面所に向かう。  私はリビングに置きっぱなしだった自分の荷物からTシャツを取り出して着替えた。 「なつ、着替えた?」  洗面所から声が聞こえてきて、髪をまとめながら私もそこへ向かうと、髭を剃り終えて肌を整えている彼がいる。 「うん、あたしも顔洗う」  前髪を上げていたパイル地の太めのヘアバンドを外して、私に手渡す。 「はい」  彼だけのものだったこの家に少しずつ私も共有できるものが増えている。  洗面所を出る彼を横目に、蛇口を開けて冷たい水で顔を洗う。  前より、笑顔をよく見せてくれるような気がする。  曖昧で儚げな微笑みではなくて、深くやさしい笑顔。  前から、笑ってくれるとうれしくなってたけど、今はもっとうれしくなってる。  もっと上田さんのことが好きになってる。  鏡に映った洗って濡れたままの自分の顔は、自然と笑顔が浮かんでしまっている。
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