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 天野は飛び込んだ。  冬の海の冷たさは、彼の体温を奪った。しかし、進むしか無かった。波は荒れていた。向こうにあるはずの陸地に向かって、進み続けた。  大隅は煙草を吸いながら、隊長への嘘を考えていた。そして、もう見えるか見えないか、それほど小さくなった人影に向かって、【敵】が近づいていることに気がついた。 「嘘だろ…一度もなかったのに…!」 ジープのアクセルを踏みながら、彼は無線を飛ばした。 「東北道より【敵】接近!全員急行!」  オオン、オオン…  その咆哮を聞くだけで、人間は背筋が凍りつく。荒海で藻掻く天野にとっても同じであった。 「そんな…」  自分の眼前に【敵】が迫っていることに彼は思わず手が止まってしまった。しかし、そのとき、胸元に熱を感じた。それはたしかに自分の胸ポケットからのものだった。  左手でポケットを漁ると、そのお守りはたしかに淡く優しく光っていた。そして、【敵】もその光に向かって近づいていると気づいた。それは巫女の場所に気づいたときの【敵】の挙動を思い出させた。 「すててしまえ」  脳裏によぎった。左手を振りかぶった。しかし、そのとき、彼の中に、このお守りをもらったあの日の声が蘇った。
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