春を前にして

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春を前にして

「…私は巫女で危険なの。だから、もう君とはいられないの。これは君だけに話す秘密」  あれから、幾日も経った。今だからこそ話せると、森野から告白した。そしてはにかんでから、寂しそうに笑った。あの日と同じ樹の下で、そう告白した。  天野は、しばし考えてから、答えた。 「つまり、その部隊に入って衛士になれれば君を守れるんだよな」 「…ねえ、話を聞いてた?」 「ああ、君は守られてて、衛士はその一員だって。」 「はぁ…君って学校の成績はいいのに、時々馬鹿だよね」 「え?」 「ああ、もういい。…分かった。君は馬鹿で、…私はそういう君が好き。だから、もう一度言うね。」  彼女は大きく深呼吸をした。 「…これは秘密。私は巫女で【敵】から狙われてる。だから、助けてくれるなら、衛士になって、私の隣に来て。…これでいい?」 「ああ、必ず約束を果たす。」 「絶対に秘密だよ。」 「約束は絶対に守る。」  ふたりはもう一度キスをした。泣かない、逃げない。諦めない。それは誓いのようなキスだった。  そして、ふたりは歩き出した。それぞれの向かうべき場所を目指して。
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