向う春

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 人間が【敵】と対峙し、嘆き、悲しみ、絶望し、それでも諦めずに抗い続けて幾年も過ぎた頃、義眼の巫女は都の議場の襖を開けた。初老の付き人は夜は冷えるからと羽織物を渡そうとした。それをありがたく受け取り、夜空を見上げた。なるほど確かにまだ冬の大三角も見える。 「でも、この蕾も明日には咲くでしょう。見届けなくてはね。」 「大丈夫ですよ。明日、みんなで咲いた桜を観るとしましょう。」  廊下の向こうから、片腕が義手の軍人が微笑みながら近づき、巫女の前で敬礼をした。 「約束ですから。あなたは巫女で【敵】から狙われてる。だから、衛士となった今、あなたの隣に来た。秘密の約束、守れていますよね。」 「…自分勝手な人。」  そして、間もなく、朝が来て、また新しい春が来ようとしている。
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