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部隊長は天野の辞表に対して、大隅を呼びつけた。
「あいつを一日連れ出してよい。気持ちをかえてやってくれ」
人手の足りない現状では、一人でも肉の壁を無くすわけにはいかない。残酷な判断だが、大隅はそれを受け入れて、ジープに酒瓶とトランプ、それからいざというときの機関銃を積んで、窓を眺めるばかりの天野を連れて、久しぶりに訓練校の外へと繰り出した。と言っても島からは出られず、大隅のような生き残りたちは、島の廃墟で、自堕落に酒を飲んで過していることが多かった。
「いつ死ぬか分からない、そもそも勝てる見込みもない。だから、生きているうちにやれることやっておけ、といっても出られないんだけどな」
軽口を叩く大隅の目は濁っていた。彼もまた、既に片耳がつぶれていた。
彼らの基地や訓練校がある島は、元々人口数百の小島だった。ここに【敵】の侵入形跡が無いため、島すべて国が買い付けて、訓練校および病院として、即席の要塞が造られた。道もろくに整備されていない荒野から、大隅行きつけのスナック廃墟に向かいながら、大隅は質問した。
「天野は辞めたら、どうするんだよ」
「…すみません、考えてないです」
「だよな、分かるよ。いつまで生きられるかも、わかんないだもん。でも、じゃあなんで辞めるんだよ。」
「…俺のせいで迷惑をかけたくないんです。」
「…いいヤツこそ、そういってオレみたいな奴だけが残るんだよなあ。」
「大隅さんはいい人です。」
「…マジで?」
「ハイ、いつも俺達新入りのことを考えてくれてます。」
「…まいったなあ…。じゃあさ、言うわ。」
大隅は突然ブレーキを踏んで、天野の顔を覗き込んだ。
「ここにいたって彼女の力になる前に死ぬだけだ。行け。」
「え?」
「死ぬ気で泳げば、一時間もせず本州だ。ボートを使うと逆にバレて殺される。行け。」
「でも!」
「じゃあ、ここで死ぬか?」
大隅は銃を突きつけた。その目の色を見て、天野は左手で無理やりドアを開けた。
「走れやボケえ!!!」
大隅は空に向かって銃を撃ちはなった。天野はその音を背に、胸元には森野のお守りをしまい込んで、全力で走り出した。
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