春、夏

1/1
前へ
/13ページ
次へ

春、夏

「絶対に秘密だよ。」 「約束は絶対に守る。」 だから、俺は遠くの街に行くことにした。 それが春の始まり。 「ようこそ、諸君。君たちがこの国の希望だ。」 「ようこそ、第五班のみんな、ここが監獄島だ。」  天野は今朝方送った手紙が無事に届くことを祈りながら、上官の言葉を受け入れていた。 拝啓、森野さま そちらは"大学"を楽しんでいますか?今どき手紙で連絡するのも偏に君との約束を守るためです。最近は何でもかんでも流出したニュースを聞きますからね。読み終わっても読み終わってなくても燃えるゴミに出してください。といっても、実際は電波が入らないからなんですけど。 こちらは今訓練校で毎日しごかれています。でも、約束を守るために、一秒でも長く練習しています。 あなたに近づけるように。 それでは、お身体に気をつけて。 天海博明 拝啓、天海くん お手紙ありがとう。 こちらはもう桜が葉桜になって、枯れ木だったあの日からそんなに経ったのかびっくりしてます。オリエンテーションで会った男の子が、九州出身って聞いたから、君の学校についても聞いたよ。なんでも監獄島って呼ばれてるなんて聞いたから、心配になっちゃった。君は他の人が諦めることもめげないから、無理してないか心配だよ。天海くんこそ身体に気をつけてね。 私は今度から実地演習に行くよ。覚えなくちゃいけないことが多くて、君みたいに頭がよかったらいいのに、ってうらやましくなってます。なんて、ないものねだりはよくないね。 それでは、またね。 森野希里 「しばらくぶりの郵便物ですよ。」  森野は差し出された郵便物を慌てて二度落とし、三回目でおそるおそる封を切った。 拝啓、森野さま お元気ですか。蝉がうるさいし、朝から宿舎が暑くて、嫌になります。そんな毎日ですが、そちらはどうですか?久しぶりの手紙になってしまい申し訳ないです。三連続で昇級試験に落ちて、才能ないんじゃないかと落ち込んでいたところです。でもあなたが高校時代にくれたお守りが出てきて、奮い立たされました。その必死の想いが届いたのか、やっと昇級して、次は実地訓練です!もちろん怪我にも気をつけています。無理は禁物、部活動でもあなたに口酸っぱく言われてましたからね。 実際、同期がリタイアして、地元に変えることが決まりました。悔しいし、怖くもなりました。私のようなひよっこが言うなと笑われてしまいますが、どうか、お身体に気をつけて。 天野博明 追伸 片付けはちゃんとやろうと思います…。 拝啓、天野くん お手紙ありがとう。 こっちはまあ、ボチボチです。大学は楽しいですよ。授業については先生たちも考慮してくれているから、卒業はできそう。この間大学の同期からDVを疑われて(苦笑)、言い訳が大変だったよ。 やっぱり怖いよね。最近は訓練と本番の境目がない感じ。いつまでこんなの続くんだろうね。 どうか、無理しないでね。 森野希里 追伸 そんなだいじなもの、忘れないでよ!これからはもっと片付けしてね(笑)
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加