良太の苦悩 

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※  固まっていた桜がようやく口を開く。 「いや、待て、その話は無理がある。そもそもなんでお前が金欲しさに体を売る?」  続けて桜は良太に疑問をぶちまけた。  これまで金が欲しいなんて言われたことが一度もないのに、そんな話は信じられないと桜は言う。桜があの日、一緒に暮らしているのに初めて外泊すると言ったことで怒った良太が、そんな嘘までついて桜を悲しませようとしているのかと聞いてくる――百万なんてはした金で体を売るとは思えないと。 「……百万は先輩にははした金でも、オメガにとって大金です。それ以下の金も手に入らなくて死ぬオメガも大勢います」  良太が桜の問いにそう答えると、桜はすかさず反論する。 「違う! 今はそんな話じゃない。お前は本気で体を売ったというのか? 嘘なら早く言え、今ならそんな笑えない冗談でも許してやる」  良太の腕を必死に掴んできた桜は、怖い顔をしている。掴まれた良太の腕が痛いことから、桜はこれが嘘じゃないとわかっているのだと思った。 「いいえ、そういう話です。先輩と僕の価値観、ものの見方が違うから、互いに理解ができないんです。僕のした行動がわからないんですよね? アルファには一生、わかりません」  このやりとりに意味がないと感じる良太は、ここを出てからどこに行こうと考えていた。あの優しいアルファの連絡先、今となっては見ておけばよかったと少しだけ思うずるい自分がいた。勇吾に捨てられた。もちろん桐生のところにも行けない。良太はもう投げやりだった。 「もういいでしょ? どうせ(つがい)は遅かれ早かれ解消するんです。お互いに理解できない世界の話は時間の無駄です。これ以上はもう話すことはない。あなたとは今後――」 「ふざけるな!」  言い切る前に桜が怒鳴った。 「(つがい)を解消するって、何かあるごとに言ってそうやっていつも俺を脅す。お前こそ、俺を手の内で転がしていて楽しいのか? 俺にはお前のその考えを、どうしていいのか、わからないよ……」  桜が本気で、良太のことをわからないと弱音を吐く。良太もここまできたらもう譲れない。 「それこそ、です。僕は(つがい)解消を脅しの道具に使ったことはない。好きだとか言うくせに、先輩は僕を何一つ信じない。いつだって真剣に(つがい)を解消して欲しいって言った! オメガはそんなこと言わないとかいう思い込みこそが、僕の人格を否定しているんだって、わかりませんか?」  桜の怒りは静まらないが、良太の話す内容に驚いている。 「解消が死だから選べないとでも思った? 生きることがどんなに辛いか、子どもの頃から死ばかりが身近にあった僕には、死は救いです。両親も立派にいて、生きること自体に不都合を感じないアルファのにはわからないでしょ? ね、育った環境が違う者同士はわかり合えない」  そう、死ぬのは辛い事じゃない。生きる方がよっぽど辛い。知っていたのに、良太はまだこんな場所にいたことに不思議に思った。 「だから、もうこれ以上はお互い演技をやめましょう。これ以上一緒にいても、互いの利益は何一つない。不毛です、終わりにしましょう」 「演技ってなんだ? お前は俺との時間が演技だったのか?」  桜は驚いたように聞いてきた。 「それはお互い様でしょ、」 「俺はお前に聞いている! 俺自身のとってきた行動をお前の思い込みで決めるな! どうなんだ? 演技だったのか?」 「……利益があるかと思って、近くにいただけです。でも僕には何の得もなかった。これでいいですか?」  この場で殺されるかもしれないとすら思ったくらいに、桜の顔は狂気に満ちていた。  そのほうが、(つがい)解消より桐生にとっていい話かもしれない。自分の孫がライバル会社の子息に殺された。ビジネスチャンスになるし、これで恩を返せる。  今の桜の何もかもが怖かったが、最初で最後の本音を言った。いっそ、逆上して殺せばいいとまで良太は思った。  すると次の瞬間、いきなり発情フェロモンを浴びせられた。 「はぁ、んんっ、えっ……? な、なんで、今? んん……」  アルファが(つがい)を従わせるために、発情させるフェロモンを出す。これで支配者が誰か体で教える。オメガはそうなると何もできない。ただただ目の前のアルファを誘うだけ。  良太の後孔からは蜜がこぼれ出す。クプっと音がして、息もあがる。前は完全に()ち上がり、こんなシリアスな場面でも発情に逆らえずよだれを垂らす。良太は戸惑いの目で桜を見た。 「なあ、それも演技か? 俺には(つがい)を求めるオメガに見えるんだけど、しかも淫乱な」 「んっ、やめ……て。その匂い……」  良太の体は昂り、前は服の形を変えるほどになっている。後ろは蜜で下着が濡れている。良太はしゃがみ込み、必死に息を吐いて、快楽の波に抗おうとした。 「演技で前をギチギチにおっ()てる根っからの淫乱だ。(つがい)がいながら他の奴とできる。しかも丸二日も。オメガは(つがい)以外受け入れられないって淫乱のお前には関係なかったんだな」  桜は良太を言葉で責め立ててくる。 「今度は俺の前でアルファと寝る? だって俺だけじゃ足りないから、他の奴と寝れるんだよな? 吐きながらヤルの? そういうプレイが好きだなんて知らなかったよ、それじゃ俺とのセックスに満足しないな?」 「はあ んんっ やめて、やめ……」  酷い言われようだが、確かに淫乱だ。こんな状況でもギチギチで、しかもズボンにシミがにじみ出るくらいに濡れている。良太は辛すぎて、どうしていいかわからない。桜が良太に触れると、それを求めてしまいそうになる。 「ソファーまで濡れている。急にアルファ呼べないから、とりあえず俺でいいよね?」  ズボンを下され、いつのまにか桜の男根も()っていて、その剛直を何のほぐしもなく突き立てられた。 「あぁぁぁぁ――」  無言のまま、四つん這いにされて、両手を後ろで引っ張られて、後ろから何度も何度も突き立てられる。  まるでエロビデオのようなシチュエーション。こんな体勢は辛いだけなのに、痛いのに、でも、後ろは慣れた快楽を拾い集めた。前からもピュピュっ、と突き立てられるたびに蜜が出てくる。こんな状況でも自分のアルファが中に入ってきている喜びを体が感じている。  偽物とは違う。あの薬でやったセックスは最高だったが、やはり本物相手だと違う。良太のアルファはこの人だと体全体でそう言っている。 「はっ、これ演技? ねえ、俺とのセックスでもちゃんと感じてる? 満足してないんだよね? 本番で演技するくらいって、そんなにへたくそだったかな、じゃあこれはどう? これなら演技じゃなくていける?」 「あああっ、いやああぁぁぁ――っ」  角度を変えては、突き刺す。良太は何回イッたかわからないくらい、交わりは続いた。最終的に出るものがなくなり、今度は後ろの感覚が今まで味わったことがないものを感じると、ついには出さないでも昇りつめるようになった。 「まさか、こんな状況で出さないでイクなんて。その好みのアルファに調教された? 今度は潮でも吹く? すぐに仕込むのは大変かな? 俺は趣味じゃないけど、良太の可愛らしいペニスの中に細い棒でも刺してみる? 良太は淫乱だから、何をやっても喜んじゃうよね」 「あっ、あっもう、いやっ、ゆる……して……んんっ、あぁぁぁっ――」  良太が意識を失いそうになると、頬を叩かれて、まだ寝るなと言われては、すぐに力をなくすほど、突かれる。その繰り返しを何度したのだろうか。行き過ぎた快楽に、良太は本当に限界だった。  そうしていると、桜が全てを出し切ったのか部屋を出ていった。良太は立ち上がる力もなく、床に崩れて泣き続けた。裸でうつ伏せの姿勢で地べたを涙で濡らす。  少ししてから桜が戻り、「良太」と耳元で名前を囁く。持ってきた水を口移しで入れられた。もう怒りは収まったのか声のトーンは落ち着いていた。  だけど良太は恐怖で、顔を床に突っ伏し抵抗した。手で目元を隠して、それでも後ろから抱きついてくる桜に体は震えだした。ずっと泣きながら震えて、そしたらまた桜が後ろから、前触れもなく()れてきた。 「うっ、ううっ」  体を揺すぶられて、でも良太はずっと、「うっ、うっ」と泣きながらえずいていると、ついに気持ちが悪くなり、体が痙攣して呼吸ができなくなった。それにやっと気づいた桜は急いで後ろから自分の欲望を抜き良太を抱え上げたが、良太はもう目を開くことすらできなかった。
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