3 同居スタート

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 桜は、朝起きたら学園寮のカフェテリアへ行き朝食を済ませる。朝に弱い良太はその頃まだ寝ている。  良太が目覚ましを中々止められず奮闘していると、部屋に戻ってきた桜が良太を優しく起こす。目覚ましには反応できない良太だが、寝起きに眩しいイケメン顔を見ることで覚醒する。整った顔が近くにきて、毎朝心臓がうるさく騒ぐところから良太の朝が始まるのだった。  そして眠い中、桜が用意してくれたシリアルを食べて血糖値をあげる。ミルクに浸ってしんなりしているシリアルを良太が好むことを知った桜は、カフェテリアから戻るとすぐ、良太好みのシリアルの柔らかさになるよう調整し良太を起こす。  桜は自分のお気に入りのコーヒーを部屋に帰ってからゆっくり飲む習慣があり、その際にタブレットでニュースを読むのが朝の日課だった。  シリアルを食べながら、タブレット片手にコーヒーを優雅に飲んでいる桜を横目で見ていた良太は、まるでドラマでも見ているような光景だといつも思う。  数日この流れの朝を過ごしているが、心臓に悪い。こんなにも色気のある男は毒ではないだろうかと考えながら、良太は忙しい朝を過ごしていた。  放課後の良太は、図書館で勉強してから部屋へ向かう。桜は生徒会で帰りが遅いので、桜が部屋に戻ってくる前に、良太は部屋の掃除と洗濯物にとりかかる。一通り家事と呼べるものが終わるとリビングで勉強をする。そうこうしていると桜が一度寮へ戻ってくるので、お茶を入れて少し話をしてから、桜は夕食のためカフェテリアへ行くのだった。  その際、部屋が片付いていることを褒め、洗濯物が綺麗になっていることのお礼を伝えることを毎回忘れない桜。  よく気づき何かするごとに労うというフォローを自然にこなす桜を見て、「世の女性は、こんな男と暮らしたら毎日幸せだろう」と素直に思う良太だった。  桜からキッチンを自由に使っていいと許可をもらっていたので、桜が夕食のため部屋を出ると、良太は自分の夕食の支度にとりかかる。とはいっても毎回同じ食事。  夕食は冷凍にしておいたご飯をレンジで温め、それに卵をかけるというTKG(卵かけご飯)が、安定の平日ディナーだ。それを食べ終わり、片付けているとちょうど桜が戻る。  そこで良太が先に風呂に入る。さすがに部屋の主より先に風呂に入るのは申し訳ない気持ちがあるので、ベータ寮の大浴場に行くと言ったら「無防備に他人に裸を見せないで?」と全力で止められた。桜があまりに真顔だったので、生徒会長の部屋で世話になっているのに風呂も入らせてもらえないと、噂になったら困るのだろうかと思い指示に従った。  良太の後に桜が風呂に入るのだが、とても長い。イケメンだからお風呂でいろいろお手入れしているのだろうかなど、色々考えながら桜が入浴中に仕事に取り掛かる。  勇吾がタメになるからと、専門の家庭教師まで雇ってもらい習得した仕事だ。  仕事は勇吾の知り合いが持ってきてくれている。学業との両立だから沢山はできないが、期限内にちゃんと終わらせる計画をたてて取り掛かっている。  夢中になると全く周りが見えなくなるので、いつのまにか風呂から上がった桜にじっと見られている。その視線に焦る良太。風呂上りのやたらと色気を増したアルファというだけで、目を合わせてはいけない気がする良太は、たちまちそわそわとだし捕食された小動物のような気分になってしまう。しかしそんな良太を瞬時にほぐす行動を心得ている桜は、テーブルにココアが置くとその甘い香りに良太の顔がほころぶ。 「良太、一息ついたら? ココア入れたから一緒に飲もう」  良太は地べたに座り、ソファーを背もたれにしてテーブルにパソコンを置いて作業をしていたので、あわててソファーに座りなおす。すぐ隣に桜が腰をかけ、良太の頭を撫でた。これがこの部屋での日常なので、彼の手に慣れてしまった。 「ありがとうございます! あっ、マシュマロが入ってる!」  目を輝かせて喜ぶ良太を見て、桜は「可愛いな」と一言。その甘い瞳を見て「子どもっぽすぎたかな」と心の中で呟く良太はあわてて俯き、甘くて優しいココアの香りを堪能してからそれを飲んだ。彼の淹れてくれるホットココアは、とても甘くて心がほっこりした。  桜は決して良太の作業の邪魔はしないが、常に気に掛けている結果一日三回は二人でお茶をする。良太が仕事をしている間、桜も隣に座りパソコンで実家の仕事をしている。そんな静かな夜の空間についつい集中する良太。仕事をそろそろ終わりにしようとパソコンを閉じると、いつもタイミングが合い桜もちょうど仕事が終わる。  そのまま睡眠時間へと入るのも同じ時間だった。リズムがすごく似ていて、心地よい。   二人の時間は、同居してから最初こそ戸惑いがあったもののすぐに慣れていき、穏やかな感じで更けていくのだった。
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