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1.余命
世界は本当に公平にできている。
高い水準の教育を受けさせてもらえ、食べるものにも、着るものにも、住む場所にも不自由せず、身の回りのすべての世話をするおつきの人間までいる。この環境に幼いころから身を置くことができる自分は確実に幸せな人間だろう、と道隆は思う。
だが、今、窓の外を泥だらけの服をものともせず走り回り、野良仕事帰りの母親たちにどやされながら家路につく村の子ども達もまた、幸福に見える。彼らが今夜口にする食事が、兄弟同士での取り合いが必至の量しか用意されていなくても、今夜彼らが眠りにつく家が、いたるところから隙間風が吹き込み、家族皆で身を寄せ合わなければ、寒さをしのげぬようなそんなあばら家であったとしても。
なぜなら、彼等には未来がある。けれど道隆には未来が、ない。
「ご子息は二十歳までは生きられないでしょう」
そう告げられたのは、道隆が十五になってすぐだった。世界でも症例の少ない奇病にかかっていることがわかり、あまりにもあっさりと余命宣告はなされた。
以来、道隆にとっての世界はこの部屋と、窓枠の向こうの絵画のような風景だけとなった。
感染する病ではなかったために隔離という意味はなかったと思う。ただただ、道隆の体に外の世界での生活に耐えられるような強さがなかったから、父はこの部屋でのみ過ごすよう道隆に命じたのだろう。けれども、衣食住だけは与えられつつも、夢も希望も笑顔も喜びもなにも知ることのできないこの部屋は牢獄と変わりはなかった。
だから、外から響いてくる自分とそれほど年齢の変わらぬ者たちの笑い声を聴くたび、道隆は思うようにしていた。
世界はちゃんと公平にできているのだ、と。そうして自分を納得させなければ壊れてしまいそうだった。
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