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い 思わず敬語で返事をする私。
そんな私の緊張がわかっているだろうに、ちらりと覗き込んだ斗真の横顔は妙に真顔だった。だから余計に緊張してしまい、私は出来るだけ斗真の方を見ないようにするために目の前を見るようにした。もう暗くなっているので、信号や対向車線の車や、横切る自転車の光が、妙に、眩しかった。
「オレさ、陽太って人嫌いって知ってて紹介したの」
「あ、それ陽太に聞いた」
「うん、だから、明るくてよくはしゃぐという、どっちかっつーと五月蠅い彩芽とは相性悪いだろうなぁと思いながら紹介してた」
「それは私に秘密にしておいた方がよい話だったのでは?」
緊張して損した、と私は心底思った。
というか、無意識にシートベルトを握っていた手に力が入った。多分私の掌、今青筋が立っていると思います。こいつ、私をからかうために男を紹介してたってことだな? こんにゃろう。上手くいったからもう時効だしってことで秘密を告白してるなこいつ。私のさっきの緊張を返せ。
「あ、それもそっか」
私の返しに、斗真がぽつっと零した。
その感情の読めない返しは斗真が返事をする時によくあることだった。なんというか、心ここにあらずという感じというか、気持ちが全く別の所に行っている様子、といった感じだ。
「斗真ってそういう適当な所が相変わらずだね」
「長所といって」
「まぁ、友達として凄い関わりやすかったけどさ」
正直に私が返すと「友達としてなぁ。で、過去形かぁ」と乾いた笑い声を上げた。
なんだかやっぱり反応が変だ、と私が思っていると、赤信号で車が止まった。
車のエンジン音が、車内に響く。
沈黙の様で、沈黙じゃないその空気の中。
斗真は、言った。
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