第3話 疑わしきは女医

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「内密に監視し、確固たる証拠を掴んだ上で、駆逐すること。ベラナ師からもそう厳命されている」 「それで確固たる証拠とやらは、いつ掴めるんです? 悠長(ゆうちょう)に構えて犠牲者が増えれば、教会の怠慢(たいまん)だと非難されても反論できませんよ」 「それはそうだが……お、おい、どこへ行くつもりだ!」  ウルバノが慌てて声を上げたのは無理もない。  診療所へとアルヴィンが歩き始めたのを見て、腕を掴む。 「何を考えている? 不用意に接触するな」 「進まなくては、いつまでたっても解決しませんよ」  手を振りほどくと、診療所へと足を向けた。   ウルバノは目立つことを嫌ったのか……それ以上は追い掛けてはこない。  診療所の入り口に立つと、アルヴィンは立て付けの悪い扉を開いた。  待合室には、くたびれたソファーが置かれ、十人ほどの患者が腰掛けていた。  頭の裏が、チリチリと焼けるような独特な感覚が、狭い室内には満ちていた。  魔法の痕跡(こんせき)を、人はそう感じ取る。  アルヴィンはその力が特に鋭敏(えいびん)だった。  この診療所が、魔女とは全く無関係、というわけではなさそうだ。 「こんにちは。初診の方ですか?」  足を踏み入れると、受け付けにいた少女が駆け寄ってきた。年齢は、同い年くらいか。  アルヴィンは胸元に懸けた、青銅の蛇が巻き付いた銀の十字架を見せる。 「この通り教会の者だ。クリスティー医師はいるか?」 「せ、先生は診察中ですが……」  教会という単語に、少女は快活な笑みを(こわ)ばらせた。  と、同時に、背中に向けて複数の敵意のこもった視線が照射されるを感じる。  どうやら自分は、招かれざる客のようだ。 「ちょ、ちょっと待ってください! 先生はお忙しいんです……って、訊いていますか!?」  診察室は見たところ、受付から少し奥まった先にあった。  少女の制止を無視して、足を向ける。  奥に向かうほど、より濃密な魔法の痕跡が感じられる。  魔女との接触は、慎重であるべきだ。  そうあるべきだが……今ほどの好機はないと、アルヴィンは確信していた。  魔女は、日中は魔法を使えない。  魔力の源泉は、月だと言われる。つまり、魔法が使えるのは月夜に限られるのだ。  クリスティー医師が仮に火の魔女だったとしても、踏み込んで即火だるまにされる心配は、今はない。  扉をノックもせず、アルヴィンは診察室に踏み込んだ。
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