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威厳はともかく、それは脅し文句ではなかった。
審問官を目指す者は、相手の微妙な仕草、視線の移動、声音から噓を見抜く術を学ぶ。
そして市民は、正当な理由なく拒否することができない。
審問は、言質を得るための強力な武器なのだ。
クリスティーの瞳を見据えると、最初の問いを発した。
「君は、魔女か?」
「そうよ。確認が終わったのなら、帰ってもらえるかしら?」
返答はとげとげしいが、簡潔だった。
複雑な審問を組み立てていたアルヴィンは、肩すかしを食ったように、彼女の顔をまじまじと見た。
── 噓は、ない。
まさか、一問で終わるとは。
「……そんな簡単に、認めていいのか?」
「おかしなことを言うのね、それを聞くために乗り込んできたのでしょ? 私が魔女かどうか、そんな事が、診察に割り込んでくるほど大事なのかしらね。人間にだって連続殺人鬼はいるでしょうに」
「魔女の本質は、悪だ。殺人鬼は人間の中の例外だが、魔女に例外はない。表向き善行をしているように見えても、その行動には必ず裏がある」
「ひどい言いようね」
クリスティーは机に片肘をつくと、挑戦的な目を向ける。
「そう思うのなら、狩れば? 私は逃げないわよ」
言質を得ても、魔法の現認をしなければ駆逐することは許されない。
手を出せないことが分かっていて、彼女が挑発しているのは明らかだ。
アルヴィンは拳を強く握った。
二人は無言で睨み合い、診察室を可燃性の空気が満たした。
「やめてください! 先生は孤児の私にも手を差し伸べてくださった、恩人なんです!」
── 一触即発の空気を破ったのは、少女だった。
涙を浮かべ、肩は小刻みに震えている。
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