第6話 不都合な後輩

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第6話 不都合な後輩

 貧民街の住民は、魔女を信奉(しんぽう)している。  それは実に奇妙なことだが、紛れもない事実だった。  クリスティーが医師という立場を隠れ蓑(かくれみの)にしているとはいえ、少女と住民の訴えは、心からのものに見えた。  彼らは魅惑されたわけではなく、自発的な意思で魔女を守ろうとした── それは、間違いない。  だが、用心深い魔女は、自身を危険から守るための巧妙な保険を、幾重にも張り巡らせるものだ。  目に見たままのものを、素直に信じるのは危険すぎる。  ウルバノの情報が正しければ、彼女は無実の人間を十人以上焼き殺した、火の魔女なのだ。   貧民街で医療を施す慈愛に満ちた医師なのか、冷酷無情な魔女なのか。  魔女の本質が悪であるのなら、やはり彼女は後者となるのだろうか。 「だから不用意に接触するな、と言っただろう!!」  思索は、抗議の声で打ち切られた。 「耳元で大声を出さなくても聞こえていますよ」  うんざりした顔で、アルヴィンは返す。  教会に戻るなりウルバノに捕まり、彼の控え室へと連れてこられたのだ。  当然ではあるが、独断で動いた見習いに、怒り心頭に発する剣幕だ。  「診療所で、何があったんだ!?」 「何もありませんよ」  それは、明らかに噓だ。  クリスティーから言質を得たことを、アルヴィンは伏せていた。彼女を(かば)っているわけでは決してないが、まだ話すには早いと判断したのだ。  とは言え、審問官に噓は通用しない。  当然ながらウルバノは、何か隠していることに気づいたようだ。
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