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翌日、アルヴィンは事件の現場を丁寧に検証して廻った。
最後に訪れた場所は、貧民街にほど近い場所にあった。二年前に大火があったらしく、廃墟の多いひっそりとした区画である。
声をかけられたのは、ちょうど確認を終えて腰を上げた時だ。
「随分、仕事熱心なのね」
「君は……どうして、ここに?」
振り向いた先に立っていたのは、クリスティーだ。
彼女は白衣姿で、右手に大きな手提げ鞄を持っている。
こんな場所で会うとは……尾行されていたのか。アルヴィンは自分の迂闊さを呪った。
「こんな時間に何をしているんだ?」
夜の遭遇は、審問官が圧倒的に不利となる。
平静を装いながら、慎重に距離を見定めた。
距離はせいぜい二メートルか。もし彼女が不審な動作を見せれば、飛びかかれば魔法の発動を止められる……可能性は、ある。
間に合わなければウルバノが話したように、首を飛ばされて終わるだけだ。
クリスティーはアルヴィンの心を読んだかのように、微笑した。
「危篤の患者がいて、夜の往診に行っていたのよ。心配しなくても、あなたをつけていたわけじゃないわ」
「……患者を魔法で癒やすのか?」
「あらあら、これは昨日の審問の続きかしら?」
おどけたようにクリスティーは笑う。
「本人が望めば、そうね。もっとも、命にかかわる魔法はとても複雑なの。大したことはできないけれど」
「摂理に反する行いだとは思わないのか」
「家族と最期に過ごす時間を、ほんの少し伸ばすことが、そんなに悪いことなのかしらね?」
「詭弁だ!」
アルヴィンは吐き捨てるように言う。
魔法の善悪について魔女と討論したところで、平行線だろう。
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