第6話 不都合な後輩

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「それよりもあなた、火の魔女を探しているんですってね?」  クリスティーの顔から、不意に笑顔が消えた。  その声には、危険な響きが内包されていた。  夜の色をした不可視の圧力に、押しつぶされるような錯覚に襲われる。  拳銃に手を伸ばしたくなる衝動を、アルヴィンは懸命に堪えた。  まだ、使うには早い。ウルバノは迷わず駆逐しろと言うだろうが、現認していない以上── まだ、発砲はできない。 「火の魔女が誰なのか、知りたい?」 「……君なんだろ?」 「どうかしらね。ヒントをあげたでしょ? そろそろ、答えに辿り着いた頃合いだと思ったけれど、期待しすぎだったかしら」  クリスティーは、皮肉っぽく応じる。 「ヒント、ね。それは魔女の常套手段(じょうとうしゅだん)なんだよ。手助けを装って猜疑心(さいぎしん)(あお)り、ミスリードする手とも限らない」 「私はね、心理戦だとか駆け引きだとか、腹の探り合いは嫌いなの。だから、教えてあげるわ!」  クリスティーの瞳に、冷酷な光が揺れた。  危険が急速に迫り来るのを感じ、咄嗟にカズラの下に隠した拳銃に手を伸ばす。 「これが答えよ!」  彼女の手がひらめくと、猛烈な劫火(ごうか)が噴き出し、アルヴィンを襲った。  銃を出す間もない。  夜の底を赤黒い火炎が焦がし、抗する間もなく全身を焼き尽くす。    ── 焼き尽くす、はずだった。  反射的に目を瞑り、恐る恐る開いた時……灼熱の炎は、どこにもない。  その代わり視界に飛び込んできたのは、クリスティー自身だ。  彼女は、アルヴィンに飛びかかってきたのである。  「な、なにを!?」   不意を突かれ、そのまま二人は地面に倒れ込む。  魔女がこんな直接的な暴力に訴えかけてくるなんて、全く予想外だ。  彼女の顔が胸元に当たり、甘い香りが鼻孔をくすぐった。  地面に背中をしこたま打ち付けながら、だがアルヴィンは一瞬で状況を理解した。  先刻まで立っていた空間を、凶弾が切り裂いた。  同時に銃声が耳を打つ。  襲われたのではない、(かば)われたのだ。  上半身を起こしたクリスティーが腕をふると、何もない空間に水塊が出現した。  それが厚い壁となって二人の背後を覆う。  間髪を容れずに放たれていた次弾が、水中で力を削がれ、地面に転がった。  ── 魔法!!  目の前で使われた魔法、だが詳しい説明を求める時間はなさそうだ。  クリスティーが鋭く(にら)む先には── 拳銃を持つ、人影がある。  やれやれと、前髪を指先でかき上げると、アルヴィンは立ち上がった。  今夜は、来訪者が後を絶たない。  それもとっておきの招かれざる客に、彼は声をかけた。 「……あなただったんですね、審問官ウルバノ。火の魔女の仕業に見せかけた、連続殺人犯は」
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