第8話 真夜中の共闘

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模擬弾(もぎだん)なんだよ」 「なんですって?」 「僕は審問官見習いだ。見習いに、実弾は支給されない。模擬弾じゃ、至近距離でなければ、致命傷を与えるのは難しい」 「人には噓をつくなって言うくせに、自分はつくのね」 「噓じゃないさ。見習いかって、君は聞かなかっただろう?」  子供じみた言い訳をしながら、アルヴィンは考えを巡らせた。  濃密な黒煙が周囲を取り囲んでいた。  視界は奪われ、クリスティーは負傷し、相手はどこにいるか分からない。  状況は、完全にウルバノに支配されていた。  このままでは、追い詰められるのは時間の問題だろう── 「協力しましょう」  意外すぎる言葉とともに、クリスティーは顔を近づけた。 「あいつは相当な手練(てだ)れよ。私たちが別々に戦っても、殺されるだけだわ」 「審問官と魔女が手を組むなんて、あり得ない。僕たちは敵同士だ」 「その敵を、私は二回も助けたわよ。恩に着せるつもりはないけど、少しくらい信用してくれてもいいんじゃないかしら?」  彼女は真剣な光を(あお)い瞳にたたえた。 「初めて会ったとき、魔女の本質は悪だって言ったわね? でも、それは違う。少なくとも私は、人と魔女が共存できる社会を作りたいと思っている。それは、審問官アーロンの願いでもあったのよ」 「── どうして父の名を知っている?」  アルヴィンは顔に、驚きの表情を宿した。  彼女の口にした名は紛れもない、父の名だ。 「今はお互いの立場は置いて、一時休戦としましょう。私たちが力を合わせれば、この事態を切り抜けられるわ」  そう言って、クリスティーは白い優美な手を差し出した。  聞きたいことは山ほどある……が、それを状況が許さない。  二人で乗り切る以外、選択肢がないことは明白だった。 「ウルバノを倒す間だけだ!」  差し出された手を、握手せずにはたく。 「決まりね」  満足そうに笑うと、クリスティーは声をひそめた。
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