第9話 取引をしましょう

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 と、煙幕の切れ間から、発火炎が一瞬見えた。  十時の方向── ! 「見つけたわよっ!」  集中力を高め、クリスティーは魔法を発動させた。三メートル四方ほどの水塊が実体化し、人影を呑み込む。 「捉えたわ!」  手応えはあった。  驚き、憤怒(ふんぬ)苦悶(くもん)の感情が水塊からあふれ出る。  だが、ウルバノはそこから逃れることはできない。  三分もすれば意識を失うだろう。  ほっとすると同時に、アルヴィンの安否が気にかかった。まさか、銃撃を受けて倒れてはいないか…… 「アルヴィン、無事なの── !?」  呼びかけに、応答はない。  発煙弾が煙を吐き出す音が途切れると、辺りは静寂に包まれた。 「……アルヴィン?」  不安が膨れ上がり、悪い予感が頭をよぎる。  夜の闇が濃くなった。  唐突に、水音が響いた。  審問官を取り巻いていた水塊が、前触れ無く崩壊したのだ。  クリスティーは急速に、身体から魔力が霧散(むさん)するのを感じる。 「馬鹿めっ!!」  どす黒い、怒りのこもった罵声(ばせい)が響いた。  ずぶ濡れとなったウルバノが、立っていた。血走った目でクリスティーを(にら)む。 「月の入りを忘れたか? 月齢の把握は、魔女の戦い方の基本だろうが!」  咄嗟に空を見上げると、地平線に月が没していた。  魔力の源泉は、月。  それが没すれば当然、魔女は力を失う。  気づいた時には、遅すぎた。  自己の勝利を確信した目つきで、ウルバノは銃口を向ける。
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