97人が本棚に入れています
本棚に追加
と、煙幕の切れ間から、発火炎が一瞬見えた。
十時の方向── !
「見つけたわよっ!」
集中力を高め、クリスティーは魔法を発動させた。三メートル四方ほどの水塊が実体化し、人影を呑み込む。
「捉えたわ!」
手応えはあった。
驚き、憤怒、苦悶の感情が水塊からあふれ出る。
だが、ウルバノはそこから逃れることはできない。
三分もすれば意識を失うだろう。
ほっとすると同時に、アルヴィンの安否が気にかかった。まさか、銃撃を受けて倒れてはいないか……
「アルヴィン、無事なの── !?」
呼びかけに、応答はない。
発煙弾が煙を吐き出す音が途切れると、辺りは静寂に包まれた。
「……アルヴィン?」
不安が膨れ上がり、悪い予感が頭をよぎる。
夜の闇が濃くなった。
唐突に、水音が響いた。
審問官を取り巻いていた水塊が、前触れ無く崩壊したのだ。
クリスティーは急速に、身体から魔力が霧散するのを感じる。
「馬鹿めっ!!」
どす黒い、怒りのこもった罵声が響いた。
ずぶ濡れとなったウルバノが、立っていた。血走った目でクリスティーを睨む。
「月の入りを忘れたか? 月齢の把握は、魔女の戦い方の基本だろうが!」
咄嗟に空を見上げると、地平線に月が没していた。
魔力の源泉は、月。
それが没すれば当然、魔女は力を失う。
気づいた時には、遅すぎた。
自己の勝利を確信した目つきで、ウルバノは銃口を向ける。
最初のコメントを投稿しよう!