第9話 取引をしましょう

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(けが)らわしき魔女め! 地獄へ落ちるがいい!」 「その言葉、そっくりお返ししますよ」  不快そうな呟きが、背後で漏れた。  獲物を追い詰めた高揚感が、異変に気づくのを遅れさせた。  後頭部に固い銃口が突きつけられているのに気づき、ウルバノは凍りつく。  拳銃を手にしたアルヴィンが、背後に立っていたのだ。   表情が、驚愕(きょうがく)でひきつる。 「よ、よせっ」 「神のご加護を」  アルヴィンは、容赦なく引き金を引く。  目標まで、僅か数センチ。  外すことのほうが難しい距離だ。  後頭部に模擬弾が炸裂すると、非情な審問官を人形のように弾き飛ばした。  地面に転がった身体は痙攣(けいれん)し、やがて動かなくなる。  視線を上げると、険しい顔で腕を組む女医と視線が交錯した。 「月の入りのこと、知っていたんでしょ? 自分が囮になるって言っておいて、私を囮にするだなんて、いい根性しているわね」  アルヴィンは答える代わりに、銃口を向けた。 「何のつもりかしら?」  「協力するのはウルバノを倒すまで、と言ったはずだ。魔女クリスティー、言質と現認は済んだ。君を駆逐する」 「あなたに私は撃てないわよ?」  不敵な笑みを浮かべて、クリスティーは銃口を見返す。 「善良で美人で、その上怪我をした女性を、魔女というだけで撃つほど、あなたは冷酷じゃないわ」 「魔女にかける情けなどないさ」  声に反して、銃は震えていた。  彼女は魔女であり、審問官は駆逐する使命を帯びている。  だが彼女が何の罪を犯したわけでもない。ただ魔女であるという事実だけで、命を奪うことが果たして正義なのか。  罪なき者を裁くことに、ためらいが生じた。  それは、若さ(ゆえ)の甘さか。  ── それとも、あの人の息子だからかしらね。  心の中で呟くと、クリスティーは決意に満ちた眼差しを向けた。 「── 取引をしましょう」
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