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「穢らわしき魔女め! 地獄へ落ちるがいい!」
「その言葉、そっくりお返ししますよ」
不快そうな呟きが、背後で漏れた。
獲物を追い詰めた高揚感が、異変に気づくのを遅れさせた。
後頭部に固い銃口が突きつけられているのに気づき、ウルバノは凍りつく。
拳銃を手にしたアルヴィンが、背後に立っていたのだ。
表情が、驚愕でひきつる。
「よ、よせっ」
「神のご加護を」
アルヴィンは、容赦なく引き金を引く。
目標まで、僅か数センチ。
外すことのほうが難しい距離だ。
後頭部に模擬弾が炸裂すると、非情な審問官を人形のように弾き飛ばした。
地面に転がった身体は痙攣し、やがて動かなくなる。
視線を上げると、険しい顔で腕を組む女医と視線が交錯した。
「月の入りのこと、知っていたんでしょ? 自分が囮になるって言っておいて、私を囮にするだなんて、いい根性しているわね」
アルヴィンは答える代わりに、銃口を向けた。
「何のつもりかしら?」
「協力するのはウルバノを倒すまで、と言ったはずだ。魔女クリスティー、言質と現認は済んだ。君を駆逐する」
「あなたに私は撃てないわよ?」
不敵な笑みを浮かべて、クリスティーは銃口を見返す。
「善良で美人で、その上怪我をした女性を、魔女というだけで撃つほど、あなたは冷酷じゃないわ」
「魔女にかける情けなどないさ」
声に反して、銃は震えていた。
彼女は魔女であり、審問官は駆逐する使命を帯びている。
だが彼女が何の罪を犯したわけでもない。ただ魔女であるという事実だけで、命を奪うことが果たして正義なのか。
罪なき者を裁くことに、ためらいが生じた。
それは、若さ故の甘さか。
── それとも、あの人の息子だからかしらね。
心の中で呟くと、クリスティーは決意に満ちた眼差しを向けた。
「── 取引をしましょう」
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