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第1話 招かれざる見習い希望者
その部屋に通されてから、既に一時間が過ぎようとしていた。
それにもかかわらず部屋の主は、一言も言葉を発する気配はない。
上級審問官ベラナの執務室は、どこが床であるのか見いだすのが困難な程、うずたかく積まれた本で埋め尽くされていた。
かろうじて確保された空間に、黒髪の痩身の少年が立っていた。教会の助祭が着用する、黒の祭服を身につけている。まだあどけなさが残る顔立ちだが、瞳は強い意志を感じさせる。
彼を呼びつけたはずの老人は、書物に没頭したまま、一度も顔を上げない。
まるで、自分以外この部屋にいないかのような振る舞いだ。
……まさか目の前にいることを、忘れられているのではないだろうか?
それとも、忍耐力か何かを試されているのか。
本をめくる音だけが、規則的に、静かに響く。
それを三百まで数えた時、しびれを切らして少年は口を開いた。
「失礼ですが── 」
「君は、優秀だそうだな?」
老人がようやく一言発したのは、ほぼ同時だった。
問いかけはしたが、少年を視界に入れるのさえ億劫だとでも言いたげに、視線は書物に落としたままだ。
「弱冠十六歳で学院を主席卒業、か。だが、私を指導官に希望した時点で、不適格だと評価せざるを得んな」
それは、ある程度予想していた反応ではあった。
少年── アルヴィンは気後れすることなく、かつ厚かましく反論した。
「僕が優秀であることは否定しませんが、不適格とするなら、理由をお聞かせ願えますか?」
「私の二つ名を知らないわけではあるまい?」
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