144人が本棚に入れています
本棚に追加
首切りのベラナ。
それが審問官見習いの間で、この老人につけられた渾名だ。
学院を卒業し見習いとなった者は、一年間、現職の審問官に師事する。
だが、ベラナに師事した見習いで、いまだかつて一人前となった者はいなかった。後進の教育に、一切の興味を示さないことで有名なのだ。
それを承知の上で、アルヴィンは上級審問官ベラナを指導官として希望した。
目の前の老人が、過去に凶悪な魔女を幾人も駆逐した、卓越した審問官だったからだ。
「私が不適格とすると分かっていて希望するのは、想像力が欠如している。審問官を目指す者としては致命的だな」
「お言葉ですが、あなたほど魔女との戦いに精通した者はいません。僕の師となり得るのは、他にはいないでしょう」
「その減らず口を撤回するのなら、より良い師に師事できるよう、枢機卿に手紙を書いても良いのだがな」
「不要です」
アルヴィンは即答した。
老人は書物に目を落としたままで、表情は読めない── 要するに、相手にされていない、ということだろうが── 身の程知らずの見習いに、内心舌打ちしているのは間違いない。
「よかろう。では、”火の魔女”を一週間以内に駆逐すること。その課題がこなせれば、指導官を引き受けよう」
「期限は一週間ですか」
「それでできないのなら、一年をかけても同じ事だ。やめるかね?」
魔女を狩る術を学びに来た者に、魔女を駆逐して来いとは、随分な無茶ぶりである。
足元を見られていることに内心不満はあったが、受け入れる以外に選択肢がないことは明白だった。
最初のコメントを投稿しよう!