第2話 火の魔女事件

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 学院は、創立者の名前からオルガナとも呼ばれる。  そこは魔女を駆逐するための、審問官の養成学校だ。  アルヴィンはそこで、一字一句まで暗誦(あんしょう)させられた教会法を思い出した。  審問官の行動は、教会法によって定められた、厳格な規則に縛られている。少しでも逸脱(いつだつ)すれば、即刻破門される厳しいものだ。  魔女を駆逐するための原則とは、魔女であると自らの意思で告白させること。そして魔法の行使を現認することだ。  その双方が揃わなくては、審問官は魔女を狩ることは許されない。 「教会の上層部は、現場を知らなさすぎるんだ」  ウルバノの言うとおり、それは現場の審問官からは極めて不評だった。  実際、後出しジャンケンを容認するかのような規則であり、攻撃を受けてからでなくては反撃もできない。 「魔女は狡猾(こうかつ)だ。確認に手間取っている間に、首を飛ばされる。そんな仲間を、俺は何人も見てきた」  ウルバノは顔に、沈痛な色を浮かべる。 「教会法など、お偉方の免罪符(めんざいふ)にすぎないのさ。もし魔女と対峙したら、迷わずにこいつを使うんだ。言質なんて必要ない、理由は後からいくらでもつけられる」  ウルバノは肩に羽織ったカズラをチラリとめくって見せた。  左の胸元に、ホルスターに収められた回転式拳銃があった。聖職者が持つにしては不釣り合いな、物々しさを放っている。  銃は、審問官のみに所持が許されている。  彼らが相手にする敵── 魔女の圧倒的な力と渡り合うには、必要不可欠な武器だ。弾丸によっては、大型動物すら仕留めることのできる威力を持つ。 「お前は随分自信家のようだが、規則に固執(こしつ)して殉教(じゅんきょう)するような真似だけはよしてくれよ」 「規則は守りますよ。その上で、駆逐するだけです」
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