第3話 疑わしきは女医

1/2
前へ
/409ページ
次へ

第3話 疑わしきは女医

 その古びた診療所は、貧民街の一角にあった。  この辺りはアルビオでも特に治安が悪く、窃盗(せっとう)と殺人が日常となっている。 「我々が火の魔女の疑いで調査をしているのは、診療所のクリスティー医師だ」 「医師が、魔女の疑い……ですか?」  やや意外に感じながら、アルヴィンは聞き返した。  貧民街は教会関係者が立ち入ることも滅多になく、見捨てられた区画とさえ揶揄(やゆ)される。そんな場所で医療を(ほどこ)すのは、並の志ではできまい。  診療所の看板が風で揺れるのを遠巻きに見ながら、ウルバノは声を低くした。  「殺害現場での目撃証言が複数あった。内偵したところ、彼女の診療所で不可解な回復をとげる患者がいることが確認された。我々は、彼女が火の魔女である可能性が濃厚だと判断している」 「審問はしたのですか?」  審問は、相手が巧妙に隠した本性を見極め、言質を引き出すための武器だ。  魔女は、その本性を隠し社会に溶け込む術に長けている。  善良な隣人が、実は数十人を呪殺した凶悪な魔女だった、そんな例はごまんとある。  医師としての慈善(じぜん)が、社会の目を(あざむ)くためのカモフラージュなのか、審問すればはっきりとするだろう。  「そんな簡単な話ではないんだ。彼女は貧民街の医師として、住民からの信望が(あつ)い。下手に審問をして我々が疑っていると広まれば、貧民街全体を敵に回しかねない」  ウルバノは苦りながら続ける。
/409ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加