雨の日に

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side:颯太 昼休みになっていつものように茜と昼食を取ろうと席を立ったとき、担任の藤田から声を掛けられた。 「白石(しらいし)が今日の日直だったよな。悪いが健康観察表に不備があったようだから、今保健室から取ってきてくれるか。先生急用ができてしまってな」 「はあ…」 この学校では毎朝健康観察を各クラスで担任が行い、その表を保健室に日直が届けに行くシステムがある。 それに何かしらの不備があったらしく、藤田が日直の俺に取りに行くよう頼みに来たようだ。 茜と飯食いたかったんだけど……仕方ないか。すぐ戻ってくればいいし。 「分かりました!でもその前に茜…立花と昼食べる約束してるんで一声かけてから行きますね」 そう言ってふと茜の座っている窓側に目を向ける。 授業はもう終わったのに教科書ノートは開きっぱなしで虚ろな目をしていた。 今日は朝から顔色が悪くていかにも寝不足って顔をしていた。 昨日の朝は普通に元気だったのに、アイツ(・・・)と会ってから様子がおかしいので心配している。 茜のところに行こうと動き出した……が、そこで藤田が立ち塞がった。 「立花には俺から伝えておくよ。丁度立花にも連絡事項を伝えようと思っていたところだから」 ……なんだ? ただ昼食を先に食べていて欲しいと伝えようとしただけなのに、やけに必死な藤田に違和感を覚えた。 4月から担任になったこの男の事がどうにも苦手だ。 まず生徒への対応の個人差が酷い。俺みたいなうるさくて元気な生徒へは当たりが強く、質問をしても雑にあしらわれることが多い。一方で、茜みたいな静かで真面目な生徒には誰もが見てわかるほど特別扱いをしていた。 特に茜は気に入られているようで、授業毎に呼び出されては手伝いをさせられている。 そうなったときは俺も割って入って一緒に手伝いをすることが多い。 茜は特に気にしていないようだったけど、クラスの皆から見ても明らかに色々頼まれすぎだ。 なるべく、コイツと茜を関わらせたくない。 茜は完全に無自覚だけど、くっきりした瞳に鼻筋がスっと通った端正な顔立ちにほんのり赤く色付いた唇、サラサラで艶がある綺麗な黒髪、雪のように白くて綺麗な肌が特徴的な、誰から見ても美人だと言われるであろう容姿をしている。 男に美人はおかしいかもしれないけど、俺が今まで出会ったどんな女子よりもその言葉が似合っていた。 だからこそ、自分に無頓着で無自覚な茜をいつも友達として心配している。
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