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「とにかく、昼休み中に訂正してまた保健室に届けなくてはいけないから頼んだよ」
結局押し切られた。
どうせ行かなくてはいけないことに変わりないし、急いで帰ってこよう。
あーもう、なんで今日に限って日直なんだ。保健室はクラスの反対側だしそれなりの時間がかかる。
「おーい白石ー!廊下は走るなよー!!」
「すんませんー!」
ムカつきながら廊下を走っていたら何人かすれ違った先生に注意された。そんなことで時間を取られる訳には行かないので、適当に謝ってそのまま走った。
***
急いたら3分くらいで保健室に着いて、走って乱れた息を整えながらドアを開ける。
「失礼しまーす、2年Cクラスの白石颯太です。健康観察表もらいに来ましたー」
「あら、藤田先生のクラスの子ね。早速来てくれたのねー少し待っててね」
保健の先生は50代くらいの穏やかで優しいおばちゃん先生で、生徒のお母さん的な存在だ。
保健室内を見回してみると生徒は誰もいなくて、先生もデスクで仕事をしていたようだった。
引き出しの中にある健康観察表を出して、持ってきてくれた。
「出席人数が未記入だっただけだからねぇ、欠席人数は書いてくれているから藤田先生には急がなくて大丈夫ですよって伝えたのよ?こんなに早く来てくれるとは思わなかったわぁ」
「え…急ぎじゃないんすか?」
「ええ、放課後にでもちょっと寄ってくれれば良かったの」
なんだ、それ……
急ぎって言ってたよな?
聞き間違いはしていないはず。あんなに急かされたし。
「お昼休みにせっかく来てくれたのになんだか申し訳ないわ。すぐに終わるからここに人数書いてくれるかしら」
「あ、はい…」
ボールペンを渡されて人数を書き込む。
今日の欠席者は分かっている訳だし、確かにこんなの今日中ならいつでも書けるはずだ。
そのことを聞いていたはずなのに、藤田は嘘をついた。一体なんの意図があるんだ。
とりあえず急いで教室に戻って茜に謝らないと。
「できた!先生、ごめん俺急ぐ!」
「ありがとねぇ。ゆっくりお昼ご飯食べておいで」
人数を書いた健康観察表とボールペンを保健の先生に押し付け、急いで保健室を出る。
来た時よりも早く走って、教室へ向かう。
やっぱり茜に伝えておくべきだった。そういうことは気にしない本当に良い奴だから、きっと笑って『そうだったんだ』とか言ってくれるだろう。
そんな事を考えながら、ようやく教室に着いた。
閉まっていた扉を勢いよく開ける。
「茜っごめん────」
入ってすぐ窓側の席に目を向けて大声を出したが、茜の姿は見えなかった。
「あ……茜は…?」
「おお颯太かびびったー。立花なら藤田先生に連れられてどっか行ったよ」
「は?いつ!?」
「え、5分くらい前…?」
近くにいたクラスメイトに状況を聞いた。
俺が保健室に向かって少ししたとき、藤田が茜に声をかけて2人で教室を後にしたらしい。
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