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勢い余って声を出しすぎたようで、雪代はすぐに驚いた様子で振り返った。
「白石くん、昨日振りだけど相変わらず元気だね。びっくりしたよ」
そう言って少し困ったように微笑んだ雪代。周りを歩いていた生徒も足を止めてぼうっとその姿を眺めた。
やっぱりそれなりに人の目があるな、と思っていたら、「ちょっと場所移動しよっか」と雪代が俺の様子を見て雰囲気を察してくれて、廊下の隅っこに案内された。
気が使えて人気者で、芸能人でも偉そうにしている様子は全くなく、男女問わず誰にでも人あたりが良くて俺も普通に良い奴だと思っている。
思っていた。
ただ、一つだけ気になることがある。
いつも笑顔で優しい王子である雪代は、唯一茜に対する態度だけあまりにも露骨すぎる。
茜と俺が一緒にいるときに雪代と遭遇すると、必ず茜は怖がった様子で1歩引いて俺の後ろに隠れるし、雪代は茜なんか見えていないというような態度を取る。
俺でも分かる、あからさまに嫌っている奴に取る態度だった。
このふたりには、何かある。
「急に呼び止めてごめんな、急ぎで聞きたいことがあるんだ」
「それは構わないよ。どうしたの?」
雪代はにこにこと完璧な笑顔を崩さず、優しい言葉をくれる。
早く聞いて、知らなかったら戻って別の場所を探しに行こう。こうしている間にも時間は過ぎるし、茜が危険な目に合っているかもしれない。
満を持して問いかけた。
「あのさ、うちのクラスの担任の藤田と、いつも俺と一緒にいる黒髪の、ちょっと大人しい感じの、立花茜ってやつなんだけど、一緒にいるとこ見かけたりしてない……か…」
一瞬、もの凄い寒気がして鳥肌が立った。
茜の名前を出した瞬間に、雪代の温かい笑顔が消え失せた。
「……説明しろ」
温度を全く感じられない冷たい一言。
じりじりと距離を詰められて、感情が読めない表情のまま言葉を発した。
怖いと思ったのと同時に、誰だ、と思った。
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