叶わない

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目を向けた先には、たくさんの女子に囲まれながらも優しく微笑む彼がいた。 身長は182センチという圧倒的なスタイル。 琥珀色(こはくいろ)の髪はほどよくセットされていて、ふわりと風に揺れている。制服に合わせて着ている亜麻色のセーターがよく似合っていて、きっと誰もが目を奪われるだろう。 「おはよう。撮影、午後からになったんだ」 そして、低めの少し掠れたあまい声。 心臓がばくばくと音を立てて動き出す。自分に声を掛けられたわけでもないのに、高揚感でどうにかなりそうだ。 「うわー……雪代じゃん。さすが『王子様』」 となりにいた颯太も、人が溢れている後方に目を向けたらしくそう呟いた。 ファッション雑誌『NEO』専属モデルの雪代琥珀(ゆきしろこはく)は、俺と同じ高校に通っている。 それは、全くの偶然だった。 クラスは一緒になったことはないから普段関わることもないし、俺みたいなただのファンは遠くから見つめることしかできない。 琥珀は芸能人だからって校内で偉ぶったりせず普通に挨拶や会話をしてくれるから、という理由もあり好感度は高くて大人気だ。 優しい口調に甘い笑顔、誰にでも平等で優しく気遣いもできる。 生徒だけに留まらず先生からも一目置かれている。 近い距離にいるので、会話の内容も聞き取ることが出来た。 琥珀は女子に囲まれながらも教室を目指してこっちに向かってゆっくり歩いてきている。 「午後からなんだ!じゃあ今日一緒にお昼たべない?」 「えー!わたしもわたしもー!」 「ごめんね、すごく嬉しいお誘いなんだけどお昼は現場で食べるんだ。佐藤さん、中野さん、またこんどよかったら誘ってね」 「「え……名前…」」 名前を呼ばれた2人は、ぽっと頬を赤く染めた。 このように、仕事で学校にいる時間が他の生徒よりも少ない関係で、琥珀は少しでも皆と仲良くなりたいからと全校生徒の名前を覚えていると言っているのを人ずてに聞いた事がある。
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