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「……あからさま、だな」
琥珀が見えなくなったところで、ボソッと颯太が呟く。その表情はさっきのような笑顔はなく、何か考えるような真面目なものだった。
あの態度の差はさすがに颯太も気づいているようだ。
「まぁ、理由は聞かないけどさ。さすがにあれはないだろ」
「……」
「あれじゃまるで…」
まるで、存在すら認めたくないような。
目は一回も合わなかった。ただ空気のように流された。
明らかに、相手を心底嫌っている態度。
少し重い空気のなか、颯太は言いずらそうに口を開いた。
「ごめんな、無理に話振って」
申し訳なさそうに伝えられて、思わず口を挟んだ。
「いや、颯太はなんにも悪くないよ」
「……いや、試すようなことしたから。前から思ってたんだけど、雪代って茜にだけ態度クソだぞ」
「……」
分かる人には分かってしまう。
琥珀は、俺の事を間違いなく嫌っている。
これは勘違いなんかじゃなくて、実際に本人から言われたことだ。
嫌われていることはもうずっと前からわかっている。本当は琥珀を推す権利なんてないんだ。
でも俺は琥珀がどうしても好きだから、ひっそりと決して本人にはバレないよう、周りにも隠しながら応援している。
だから、以上琥珀の話を深堀りされたら困るので、話題を変えないと……
そこで丁度よく予鈴が鳴った。
「あ、ほらホームルーム始まっちゃうよ。早く行こ」
さっきの重い空気を消したくて、ぐいぐいっと颯太の腕を引っ張って急かした。
「……わかった」
颯太はなにか納得していないようだったけど、気を使ってくれたようで大人しく引っ張られてくれた。
***
「はぁ………」
一人暮らしの狭いアパートに帰宅すると、つい大きめのため息が漏れる。
あのあと学校では颯太の現文の課題を手伝い、昼休みと放課後は園芸委員の仕事があったので一日バタバタしていた。
忙しさであまり考えることができなかったが、家に帰った途端今日起こったことが鮮明に思い出せた。
「……結構くるなぁ…」
我慢していた感情が一気に溢れ出して、ポロポロと涙がこぼれる。
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