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「あれ……」
流れてきた涙を拭おうと着ているブレザーの裾で目元を擦ったけれど、強く擦りすぎて目元がヒリヒリとして痛い。
今日会ったのは本当に予想外だったから、耐性がついてなくていつもよりショックをうけたのかな。琥珀にも気を使わせてしまったから今度から気をつけないと。
頭の中で自分にそう言い聞かせる。言い聞かせながらも、やっぱり涙は止まらなくて目元がだんだんと熱を帯びてきた。
俺の大好きな人は、俺の事が誰よりも嫌い。
ずっと前から分かってる。
嫌いな理由だって、全部全部分かってるよ。
でも、どうか。
君には絶対にもう迷惑かけないから、自分から近付いたりしないから。
だから、影からこっそり応援することだけは、許して欲しい。
古く狭いワンルームには必要最低限の生活用品と、本棚がぽつんと置いてある。
そこには琥珀が専属モデルとしてデビューして初めて載った雑誌から、最新のものまで、1年分の思い出がぎっしり詰まっている。
涙を止めようとするのを諦めてそのままにし、本棚の方へ行き雑誌に手を伸ばす。
そこには、笑顔で正面を向いた琥珀が大きく写っている。
俺にはもう決して向けてくれることはないその笑顔を見て、懐かしい気持ち、切なく苦しい気持ちが交差する。
『 大人になったら、また2人で絶対見に来よう!約束!』
あの日、沈みかけの夕日に照らされて少し眩しそうにしながら、そう言って春のひだまりのような笑顔を向けてくれたことがあった。
それがうれしくてうれしくて、精一杯の笑顔で頷いたのをよく覚えている。その時は、また一緒にこの場所に来れると心の底から信じていた。
約束は、叶うことはなかった。
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