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叶わない
大好きな人がいる。
「はぁ……今回も最高にかっこいい…」
艶めかしいため息をつきながら、ファッション雑誌『NEO』を片手に悶絶する立花茜は、今日も幸せを噛み締めていた。
雑誌の見開きにドンッと効果音がつきそうな程に主張されている人物に目を奪われる。
スラッと伸びた細いながらもほどよく筋肉のついた手足、少し癖のある明るくオレンジがかった色素の薄い髪。
そして何より、長いまつ毛に程よく薄い血色の良い唇、二重のぱっちりした吸い込まれるような瞳、どのパーツをとっても、誰から見ても完璧に整った顔面。
「やっぱり琥珀が世界一だな」
ニヤつきを隠せないまま、満足気に呟いた。
見開きの右下には、『今話題の超新星高校生モデル!雪代琥珀』と特徴的なフォントで主張されている。
俺の最強の推しだ。
年は同い年の17歳で、琥珀がモデルとして活動し始めた1年前から追い続けている。琥珀が少しでも載っている雑誌は全て網羅し、隅から隅まで目を通していて、メディア出演した映像は全て録画済みで暇さえあれば見直している。
雑誌の中の琥珀は今日も輝いていて、クールで色気のある表情から、年相応の少し幼いひだまりのような笑顔まで、何から何まで完璧だ。
「推しを拝める世界に感謝…」
雑誌を胸に抱えて、ポスンとベッドに横たわる。
圧倒的な存在感に触れて、興奮で今夜もあまり寝付けそうにない。例えるなら大好きなバンドのライブ後のような感覚。口角が上がったのをそのままに、しばらくにまにました状態でベッドの上を転がった。
好き、好き、大好き。気持ちが溢れて止まらない。
でも彼は、世界でいちばん俺を嫌っている。
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