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「絶っっっっっっ対に誰にも言うんじゃねぇぞ」
放課後。
相談があると言われて十七日ぶりに誘われたヨルの家の前で、俺は胸ぐらを掴まれながら頼み事をされていた。
至近距離にヨルの顔がある。ふんわりと柔軟剤のいい香りが漂ってくる。
付き合っていないのにこんなに幸せを享受していいのだろうか?
答えはYESだ。これが幼なじみの特権である。
「……聞いてんのか?」
「聞いてる聞いてる!俺がヨルの声を一字一句聞き逃すわけ無いだろ!」
「やっぱ相談する相手間違えたかな…」
急にヨルの顔が暗くなる。それほど深刻な出来事なのだろう。
自分の気を引き締めつつ、俺は彼女の肩にそっと手を置いた。
「安心しろ、ヨル。お前の悩みは俺が解決する」
「その悩みの中にお前も含まれている事を理解してくれ」
相当根深い問題のようだ。彼女の錯乱具合からも見て取れる。
必ずヨルに降り掛かっている問題を解決すると胸に誓ったところで、道行く人々の注目を集めていることに気がついた。
流石のヨルも道端で睦み合うのは恥ずかしいようで、俺の胸ぐらから手を離し家の中へと引っ張り込んだ。可愛い奴め。
「で、あんな熱いスキンシップを交わした俺に相談したいことってなんだ?」
「気持ちわりぃ表現の仕方すんな!どう見たって違うだろ!」
「ちなみに告白の返事なら俺はいつでもOKだ。いや、このタイミングで家に誘われたってことはまさか…。恋人のその先へ行こうとしてるのか!?」
「だから違ぇって言ってんだろ!……ハァ。もういいや、疲れた…。とりあえず見てくれ」
玄関に鍵をかけ、ヨルの部屋に案内される。
階段を上る間、彼女にどんな問題が降り掛かっているのかを考えた。
人間関係か?いや、ヨルの性格を考えると、そんな事で悩むとは思えない。
金銭面か?いや、ヨルはそんなズボラな人間では無いから、それも違う。
それなら…。
「恋愛か?」
「お前が何を想像してるのかだいたい分かるけど違う」
『勝手に入るな』と書かれたプレートが立て掛けられた扉の前に着く。
彼女はドアノブに手をかけたが、開けるのを躊躇っているようだった。
「…大丈夫か?」
「うるせぇ…。分かってるよ」
深呼吸をして、決意したように凛々しい顔で扉を見据える。
彼女は勢いよく扉を開けた。
開け放たれた窓から心地よい風が吹く。白いレースのカーテンが揺れ、ヒラヒラと舞う度に光が差し込んでいた
「チッ…。呑気なもんだ」
いつもヨルが使っているベッドの上には、光に照らされキラキラと白髪が輝く少女が眠っていた。
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