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「起きろぉオオー!!!」
寝ている少女へと近づいたヨルは、布団を掴むと一気に引き剥がした。
あまりの勢いに少女は小さく小動物のような悲鳴を上げると、まだ眠いようで目元を手で擦っていた。
「う、う〜ん…。せっかく気持ちよく寝てたのに…。なにぃ?」
「人が学校行ってる間に寝ててムカついた」
「ヨルちゃん酷いぃ〜…。あれ?そっちの人は…?」
そう言って少女はこちらを見る。
俺は彼女が誰か知らない。声も、仕草も、表情も…。何一つ見覚えがない。だが、俺の魂が彼女を知っていると告げてくる。彼女の存在が誰かを告げてくる。
これは本能的な問題だ。俺の中の細胞一つに至るまで、彼女が何者であるかを答えているのだ。
そして自然と口から発せられる。
「…ヨル、なのか……?」
口に出しても信じられない。実感が湧かない。だけど、妙に納得出来る自分がいる。
彼女は間違いなく、晴星 ヨルだ。
「お前、良く分かったな」
「当たり前だろ。この十七年間一分一秒たりともお前以外を考えた事が」
「本当にキモイからそれ以上話さなくていいわ」
人前だから照れているのだろう。ヨルは奥ゆかしい人間だからな。反省しないと。
しかし『キモイ』と言われれば俺でも落ち込みはする。それに対して目の前の…白髪のヨルは、ヨルに対して注意を始めた。
「こ〜ら、ヨルちゃん。悪口を言っちゃいけないよぉ。可哀想でしょ〜?」
「そうだぞヨル。悪口は良くない」
「自分で言うな自分で。それに、調子に乗るからコイツにはハッキリ言っとかないとダメなんだよ」
「それでも悪口はダメだよぉ〜。私も気持ち悪いと思ってるし同じ空間にいるのも嫌だけど、我慢してるもん」
「!?」
突然おっとりとした口調から鋭いナイフが飛んできた。
自分の耳を疑いながら白髪の方のヨルを見るが、彼女は目を合わせると眩しい笑顔を見せてきた。やはり聞き間違いのようだ。
「あんた、割とハッキリ言うんだね…」
「そうだよ〜。私だってよく分からないけど、元はヨルちゃんなんだもん。気持ち悪いなぁ〜とか、話しかけないで欲しいなぁ〜とか、今すぐ視界から消えで欲しいなぁ〜とか、色々考えてるよ〜」
「そんな奴がいるのか。実にけしからん」
「う〜ん…。これはツッコんだ方がいいの?」
「キリないからやめとけ。あんたも私なら分かるだろ?」
「でもぉ、何も言ってあげないのは可哀想だよぉ…」
「俺のことは気にするな。そんなお前も好きだ」
「ちょっともう、やだぁ〜。ヨルちゃんの前で恥ずかしいよぉ〜」
軽く腕を叩かれた瞬間、スパァーンッ!と強烈な音が部屋に響く。
かなり鋭くキレのある振りだった。めちゃくちゃ痛いし腕にくっきりと手形の痣が残っている。
ずっと消えないで。
「あぁ、もうッ!話が進まねぇー!一回事情話すから会話やめろ!」
いい加減進展しない現状に嫌気が差したのか、ヨルが「座れ!」とテーブルを叩く。
白髪のヨルと俺のスキンシップに嫉妬でもしたのだろうか?
やれやれ。俺はヨル一筋だって言うのに…。
だが、同じヨルである以上どちらのヨルも悲しませる訳には行かない。
四角いテーブルに向かい合うように座る二人を見て、俺は質問した。
「で、俺はどっちの隣に座ったらいいのかな?」
「お前は立ってろ」
「あなたは立っててください」
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