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黒髪のヨルと白髪のヨル。にわかには信じ難いが二人は同じ存在だ。だが、その表現は半分違う。
仕草も声も顔立ちも。性格も体つきも、何もかもが違う。言うなれば、同一人物ではあるがヨルの全てを真反対にした人間が白髪の彼女である。
では何故こうなったのか。
それは素晴らしい俺の幼なじみの口から簡潔に説明された。
「朝起きたらこうなってた」
以上である。
明らかに超常的な現象が働いた事は確かであるが、それを説明出来る知識を誰も持ち合わせていないため、納得するしかない。
なら、白髪のヨルをどうして本物のヨルと同じ存在だと思えるのか。
それは簡単だ。最初に感じた通り、俺の本能がそう告げているから間違いない。
「お前はヨルなのか?」
「そうだよぉ〜。私も同じヨルちゃんだよぉ〜」
本人公認なのでヨルで間違いない。
しかし、未だに何が問題なのかが全く分からない。ヨルが二人に増えても、俺の愛は本物のヨルの方にやや多く傾いているから何も問題は無いのだが…。
「ヨルは何が不満なんだ?」
「私はあなたに話しかけられること以外、特に不満はないよぉ〜」
「あんたじゃなくて私に言ったんでしょ。てか、この状況みて本気で言ってんの?」
やっぱり問題はあるらしい。
そう言われて部屋の中を見回して、俺は気がついた。
「二人でいるには部屋が狭い…とか?」
「確かにそうだけど違う!こいつをどうするかって事だ!」
ヨルに指を差された白髪のヨルはキョトンとした顔でいる。
人差し指の先を頬に当てて考え、
「私はヨルちゃんと一緒でいいよ」
と笑顔で答えた。
「私がそれじゃ困るの!」
「だったら俺が引き取ろう。安心しろ。部屋なら余ってる」
「それは絶対にダメ!」
「監禁されちゃう…!」
必死に止めてくるヨルに、真っ青な顔で怯え始める白髪のヨル。
この信用の無さは何なのだろうか。
「じゃあどうするんだ?ホテルにでも泊まらせるのか?」
「そんな金は無い…」
「んじゃヨルのママさんに、彼女を泊めれるか聞くしかないだろ」
「ママにはもう話した。そしたら…」
「そしたら?」
「娘が増えて嬉しいって言ってた…」
あのママさんならそう言うだろうと何となく予想はしていた。
結局、白髪のヨルと本物のヨルは、何か解決策が見つかるまで一緒の部屋を使うという事で合意した。
その後も色々な事を話し合った。白髪のヨルが着る服だとか、学校は行かせた方がいいかとか、ずっとこのままだったらどうするかとか…。
殆どの問題は学生である俺たちではどうすることも出来ないため、本当に困った事があった場合は、お互いの両親に相談しようと決めた。
そうして話している内に日が暮れて、いつの間にか空には月が浮かんでいた。
「やべぇ、もうこんな時間か。そろそろ帰るわ」
「ん、分かった。気をつけてな」
「またねぇ〜。気をつけてねぇ〜」
そう言って二人とも、同じタイミングで手をヒラヒラと振ってくる。
稀に被る仕草からも、彼女たちが同じ存在だと実感させられる。
「…そういえば、名前は決めたのか?」
「名前?そんなの普通にヨルでいいだろ」
「でも、名前が被ってるのはややこしくないか?さっきも俺が名前を呼んだ時、そっちのヨルちゃんも返事してたし」
「確かに。同じ名前だとヨルちゃん混乱しちゃうかもねぇ〜」
「あー、今ので実感したわ。どっちもちゃん付けするから一瞬混乱した。まぁ、でも白ヨルとかでいいんじゃねぇの?」
「ひどーい。人を信号機みたいに呼ばないでよぉ〜」
「いや、信号機は赤、青、黄だろ…」
二人のやり取りを聞きながら、何かいい名前はないかと考える。
白髪のヨルは、本物のヨルと違って全てが真反対の性格をしている。多少被っている部分はあるものの、それでもマイペースな話し方が本人と一番違う所だろう。常にほんわかとした雰囲気で笑っている。明るい人間だ…。
「無難にアサ…とか?」
俺の言葉を聞いて、アサは目を輝かせた。
「アサ!すっごいしっくり来る!アサ、アサ。アサ!」
一瞬、ヨルは何か言いたげだったが、嬉しそうに何度も自分の名前を呼ぶアサを見て、嬉しそうにただ笑顔を見せていた。
「ヨルちゃん!アサって呼んで?」
「何でだよ…」
「いいからいいから!」
「あ、アサ…?」
「な〜あ〜にぃ?」
名前を呼ばれて、アサは嬉しそうにヨルに抱きつく。ヨルは鬱陶しそうに引きはがそうとしていた。
きっとこの光景を見たら、どんな争いも収まる事だろう。
国宝級の光景を目に焼き付けながら、名残惜しくも、俺はヨルの部屋を後にした。
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