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*1 ウィンウィンであるはずの手段と代償に見る夢
――ああ、またこの夢か……わかっていても、覚える感触はすべてリアルで痛々しくさえある。
夢なのに、まるで今体験しているかのように感じるのだ。
「ッは、あ……ッぐ……」
身体が燃えるように痛くて熱い……でも手足にはもう力も入らなくて血が通っていないのか動かすこともできない。
ああ、もうこのまま俺は死ぬんだ――ぼやけて薄れていく視界と意識の中でそれだけはわかっていた。
親に娼館に売られて、そこでトップの座に昇りつめたと言うのに、ヘンな客に好かれた挙げ句逆上されて刺されて……思えば散々な人生だったな……。その終わりもこんな、身体中を痛みに苛まれ血まみれの姿で迎えるなんてそんなことを、夢の中の俺は考えている。
「シデーリオ様……っあぁ、クソ……なんで、こんな……っが、あぁ……」
シデーリオ……俺の名前であるらしいそれを口にしながら、誰かが視界に映り込んでくる。日によく焼けた肌からは俺と同じく真っ赤な血が滴っている。彼も、俺のように――
「俺はもうダメだよ、オルゴー……もう、指に力が、入らない……ッあ、う……」
「申し訳、ござい、ませ、ん……俺、が、ついて……いながら……」
オルゴーという男の顔が悔しそうに歪むのがわかり、何故か俺はもう動きを止めようとしている心臓が痛むのを感じた。
「オルゴー、の、せいじゃ……な、い……」
だからもうそんな顔をしないで……そう言いかけて、視界が一気に暗くなっていく。もう、命の火は消えようとしているのだろう。
まともに話せなくなった俺の唇に何かが触れ、俺の上に何かが覆い被さる気配がした。その重みに、自分がまだ生きていることを感じる。でも、それももうあとわずかだろう。
「……愛してます、シデーリオ様……」
こんな時に囁かれる愛の言葉のなんと痛々しいことか。もうずいぶんと流さなかった涙が、見えなくなった目から流れていくのがわかる。
彼の名を呼んで応えたい。でも、もうそんな力もいまの俺にはない。
耳元に触れながら、オルゴーはこう囁き、やがてそれきり何も聞こえなくなった。
「――来世では……愛し合いましょう、シデーリオ様……」
来世なんて、悪事の限りを尽くしてきたとも言える俺なんかに用意されているのだろうか。信心もなく、彼をはじめとする男たちの心をもてあそんできたというのに。
そんなだからこそのこの人生の終わりだった。それなのに――俺は生まれ変わってまた愛されたいと思ってしまった。
(――今度こそ、まっとうに生きて、愛されたい……)
意識が途切れて闇に沈む間際、俺はそんなことを想いながらその一生を閉じた。
その夢は、そこでいつも終わる。目覚めると、いつも何とも言えない痛みとも悲しみともつかない気持ちに苛まれる。
そしてそれは、俺が誰か――きっとあの夢の中の男とは無関係の誰か――に抱かれている時や、そうした晩によく見る夢でもあった。
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