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結局延長も含めて四時間ラブホで過ごし、俺はどうにか再来月とその次のイベントの出演の約束を取り付けた。
歩きながら、バンドのアプリのグループに先程ゲットしたイベントの出演権のことを連絡する。
『は? マジで? またおまえなんかやったな?』
さっそく返事がベースでリーダーの淡路透から届く。淡路は俺がどういった手を使ってイベント出演などをブッキングしてきているのを勘づいているようで、報告するたびに説教クサいことを言ってくる。
『やったからなんだよ セラータを売るためには当然だろ』
俺がそのたびにこう言い返すと、対面していたなら淡路はあからさまに顔をしかめ、そして気まずそうにうつむく。
事実、俺が身体を張ってイベント出演を取り付けてきたおかげで、インディーズバンドのアンソロジーアルバムに入れてもらえたことだってあった。だから、淡路は俺の行動に強く言い返せない。
『お マジで? 悪いな、ありがとー』
もう一人、ドラムの張本智景は淡路と対照的に何にも言ってこない。もしかしたら俺が何をしているのかも気にしていないのかもしれない。知ろうとしないのか気にしていないのかはわからないけれど。
『は? キモいことしてんじゃねーよ』
ただ一人、ギターの茶山京介だけは違う。茶山は、俺が何をどうやってこれを手に入れているのを見透かしていて、そして心底軽蔑している。だからリアクションも毎度こんな感じだ。
「俺が抱かれてやってるから、お前が気持ちよくギター弾けてるんだろうがよ……」
茶山のリアクションに舌打ちをして呟きながら、俺は夜のネオン街を歩いて行く。
バンドが知られて上手くなって、更に俺が気持ちよくなれる。これでメジャーにデビューできたら言うことはない。いまはそのための試金石の日々に過ぎない。
白く汚されるほどに、俺は誰かの役に立っている、愛されていると思える。だからこれで構わないと思っている。
でも――時々、言いようのない胸に穴の開いたような気持ちになるのはなんでなんだろうか。
そしてそんな気持ちになった夜はあの夢を見てしまうのだ。
夢でありながらリアルで痛々しい感触を伴う、一つの命が終わる瞬間の光景を繰り返す、まるで記憶の再生のような夢を。
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