*24 蘇る記憶と痛み、そして祈り

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*24 蘇る記憶と痛み、そして祈り

 ライブハウスの立っている、向かって右の方からその力が俺を突き飛ばし、俺はそのまま道路へと転がる。  冬場なので、上着を羽織っていたおかげで手足を擦りむくような事はなく、アスファルトに転がって身を起こした時、信じられない光景が広がっていた。  俺はその、目に飛び込んできた人物の名前を悲鳴じみた声で叫ぶ。 「光輝!!」  先程俺を突き飛ばしたのは光輝だったらしく、その代わりに光輝が八木田の向けてきた刃物をもろに喰らっていた。つまり、光輝が俺の代わりに八木田に刺されたのだ。  光輝は刺されながらも、俺ではない相手を刺したことで呆然としている八木田の腕をつかんで、凄んだ顔で詰め寄る。 「てめぇ……まだ、快人さ、ん……に、付きまとってた、のか、よ……ッが、っは……」 「あ、ああ……な、なんだよお前ぇ……! 僕は、僕は快人くんの罪を……」 「ふざけんな! お前ほど……罪、犯してる、よ……な、やつが……快人さ、ん……をこれ以上、穢す、なぁ!!」  俺の悲鳴と光輝の叫びが周囲に聞こえたのか、ライブハウスやコンビニからも人がたくさん出てきて、新たな悲鳴が上がったり、通報をしろと指示する声なんかが飛び交ったりして大きな騒動になってしまった。  人が出てきたことで八木田はその場に崩れ落ち、同時に光輝もまた倒れ込んで、俺は光輝に駆け寄る。 「光輝! 光輝!」  ステージで着ていた時のままの黒いTシャツが、暗がりでもわかるくらい赤く染まっていく。アスファルトにも赤が広がり、駆け寄って体に触れたせいで俺の手もまた染まっていく。  その赤を目にした途端、俺の脳裏に目まぐるしく走馬灯のように映像が流れ、指先が氷のように冷たくなっていく。  身を裂くような痛み、繋いだ赤い指先、霞んでもう見えないのにそこで微笑んでいるのがわかる姿―― 「……オルゴー?」  呟いた名前に、腕に抱きかかえた光輝がふわりと微笑んでうなずき俺の頬に触れてくる。 「ケガは、ない、ですか……」  自分の方がはるかに重傷なのに、こんな時まで俺のことを気に掛ける光輝の神経に呆れながらも、その愛情の深さの理由がようやくわかり、俺は涙があふれて止まらない。  シベリアンハスキーのような、静かだけれど獰猛さもある瞳が、ゆるく潤みながら俺を映して揺れている。映し出された俺は、白い顔をして彼を見つめるしかできないのが歯がゆい。 「オルゴー! 死ぬな! 今度こそ一緒にいるんだろ?!」  俺はいま、誰の名前を口走っているのだろう。取り乱した俺を駆け付けた淡路や張本が抱き止めているのはわかるのに、口走っている名が―― 「……今度……こそ……あなたを、守れて、良か、った……」  オルゴー……光輝が弱くそう微笑んだきり、意識を失ったのか目をつぶって口をつぐんでしまい、俺は悲鳴のような声で叫んでいた。 「いやだ! 俺をひとりにしないで!!」  夢の中の記憶なのか、前世とやらの記憶なのか、それともいま目の前で起こっていることなのか……もはや俺には区別することができず、ただただ泣き叫びながら、俺もまた光輝と共に病院へと連れて行かれた。
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