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近くの救急病院へと搬送された光輝はすぐに緊急手術となり、吸い込まれるように手術室へと運ばれていく。
気が動転して泣き叫んでいた俺は、二人がかりで処置室へと連れて行かれ、安定剤を打たれてどうにか落ち着かされることとなった。
「大丈夫ですよ、お友達、いま一生懸命治療受けてますからね」
看護師たちが、ベッドに寝かされて安定剤を点滴されている俺に代わるがわる声をかけていく。
どれくらい経ったかわからないけれど、ようやく泣きじゃくるのが治まって呼吸が整いだした頃、淡路と張本が駆けつけてくれた。二人とも泣き顔で蒼ざめていて震えている。
「……快人、大丈夫か?」
震える声で淡路に訊かれ、俺が小さな子どもみたいにうなずくと二人は目にいっぱいの涙を浮かべて泣いて俺に謝ってきた。二人は何一つ悪いことをしていないのに。
淡路によると、ジェロ……八木田は、あの場で取り押さえられ、駆け付けた警察に現行犯逮捕されたらしく、もう大丈夫だから、と言ってくれた。
それでようやく俺は少し安心できて、静かに涙をこぼして息を吐いた。
「……俺のせいで、オルゴー……光輝が……」
「快人は悪くない。逆恨みした八木田が全部悪いんだ」
「でも……俺、あいつと、今度こそ、一緒にって……言ったのに……」
滲む視界に浮かぶのは赤く血に染まりながらも俺のことを気遣い、微笑んでくれた光輝の笑顔と、血の気がなくなっていく指先の白さ。
今度こそ俺を守ると言って、光輝はずっと俺を命の代えてでもそうすると言っていた。でもだからと言って、本当に命に関わるようなことになるなんて誰が思うだろうか。
「マジで死ぬような目に遭うことになるなんて……誰が思うかよ……だから光輝は、俺なんかを命に代わって守るなんて言ってたんだ! 俺のせいだ!」
どうにか体を起こして淡路たちと会話をしていると、ふつふつとわいてくる罪悪感に耐えかねて、悲しみと後悔が目からあふれて滴っていく。頬を伝い流れていく熱い感情を言い表す言葉が出て来なくて、もどかしい。暴れ出したい気持ちを抑え震えながら膝の上でこぶしを爪が食い込むほどに握り締める。
「自分を責めるなよ、快人。お前のせいじゃないよ」
「そうだよ、快人……光輝はそう思ってない」
淡路と張本も泣きながらそう言ってくれたけれど、俺は抱え込んだ罪悪感を拭うことができない。またしても、俺は彼を死に追いやってしまったかもしれないのだから。
涙をどれだけ流し、悔やみ自分を責めたところで、起きてしまったことが帳消しになるわけではない。たとえ、彼を刺したのが、俺ではない前世からの因縁の男の仕業なのだという事が明らかであっても、その事の発端を招いたのは俺なのだから。
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