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「正直、怖くはありました。でもそれは、死ぬことがって言うより……この世界に快人さんだけを残して俺だけがいなくなることが怖かった。折角やっと巡り会えて、一緒にバンドもできてデビューの話だって決まりかけてきたのに、って。怖いって言うより、すごく、悔しかった」
でも、何とか助かってよかった、とあのヒマワリのような笑顔で言うものだから、俺は涙を止めることもできず、ベッドに横たわる彼に縋るようにして泣き崩れてしまった。
泣きながら光輝の名前と彼への謝罪の言葉を吐き出している俺の背中を、光輝はただやさしく撫でていてくれた。その感触がより一層俺の涙腺を叩くのに。
「光輝が、生きてて……良かった……ずっと、怖かった……お前がいなくなったら、俺、もうどうしたらいいかわからないから……」
「……それは、セラータのメンバーとしてですか?」
光輝の言葉に伏せていた顔をあげると、光輝は静かだけれど泣きそうな顔をして俺を見ていた。シベリアンハスキーのような静けさと獰猛さを同居させた、彼特有の雰囲気が俺の気持ちを整えていく。
泣き濡れた頬と目許を拭いながら、「それもあるけど……」と、俺は言い、再び濡れ始めた目で、光輝を真っすぐ見つめながら自分の中であの夜からずっと伝えたかった言葉を口にする。
「セラータのメンバーとしてもだけれど、俺は、もう光輝なしには生きていけないんだ。あの日お前を失ったらと思うと震えも涙も止まらなかったし、気がどうかしてしまうかと思ったくらい怖かった。だから……」
ひと息にそこまで告げ、俺はひとつ息を吐き、また目許を拭って弱く笑いながら、光輝の目を見つめる。オオカミのように鋭く、だけど何よりも俺のことをあたたかく見守っていてくれる愛にあふれた眼差しを。
「だから、もうどこにもいかないでくれ、光輝。俺とずっと一緒にいて、この命が尽きても、その次の生涯でも、お前とずっと愛し合ってともに生きていきたい」
いま俺の中にある彼への想いを、俺が紡げる最大限の愛情の言葉を告げ終えると、とめどなく涙があふれ頬を伝い、手のひらへと降り注ぐ。
「――愛してる、光輝。前世からずっと」
零れ落ちる涙をそのままに、告げた言葉を掬い上げるように光輝の指先がまた俺の頬に触れて拭ったと思ったら、俺は気付けば彼の腕の中にいた。
まだ傷が痛むだろうし、動いたら傷口が開くかもしれないのに……そう言って胸元に手を置いて離そうとしても、光輝は腕をほどいてくれない。
「……光輝、ちょ、そんな動いたら……」
「……です、快人さん……」
「え……?」
「――俺もです、快人さん……愛してます、これまでも、この先も、ずっと……」
ようやく腕を少しほどかれて向かい合うと、光輝の目も泣き濡れて煌めいている。ヒマワリに雫がこぼれ落ちているようで眩しくさえある。
その雫に俺は口付けて吸うと、光輝がまた俺を抱きしめてくる。その腕の強さに胸が締め付けられるように痛み、いまこうして彼と生きて抱き合えていると実感した。
「今度こそ、一緒にしあわせになろう、光輝」
「もちろんです、快人さん」
向かい合って互いを見つめてそう告げながら、俺と光輝はどちらからともなく距離をなくしていき互いの唇に自分のを重ねていた。
長くながく焦がれていた互いの肌の感触が心地よく、触れ合いついばむだけのキスから段々と舌を絡ませる深いものへと変わる。
息継ぎさえも忘れて唇をしばらく重ねてから離れると、互いにほだされた表情に愛しさがさらに湧き上がる。
「――愛してる、やっと言えた」
申し合わせたように同時に口にした言葉に小さく笑い、俺らはまたそっと口付け合った。
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