*26 たしかめあうこと

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*26 たしかめあうこと

 結局一ヶ月近く光輝は入院し、それから体力が戻るまでの間は実家に戻ることになったらしい。  退院も実家の家族が来てくれたとかで俺が出る幕もなく、ただメッセージアプリで退院の報告を受けたぐらいだ。  俺の家には、ボディーガードを買って出てくれた当初から増え始めた、光輝のものがそこかしこにあり、その存在感が妙に気になって仕方ない。  このまま、この持ち主はもうここに戻ってこないんだろうか……そんなことを、置き去りにされたサイズの大きなシャツや、機材なんかを見ながら考えそうになって、慌てて眼を反らすような日々が続いている。 「……どうすんだよ、あれ全部」  独り言にしては大きな呟きをしながら、返事のないそれに返事があればと思いながらひとりをより実感してしまう。  ムジカレコードの平さんにも今回の刃傷沙汰の話を報告し、年明けから光輝が復活するまでの間の活動をどうするかを相談した。  セラータは当分バンドとしては活動せず、その間俺はボイストレーニングに通うように言われたり、バイトに精を出したりしつつ合間にミーティングをして次のライブを企画したりしていた。  ミーティングは俺と淡路たちは対面にして、光輝はメッセージアプリやリモートで参加したりしていたのだけれど、画面越しの対面は何かがもどかしくよそよそしい。  かと言って、光輝のケガの要因とも言える俺が、光輝の実家に顔を出すのも気まずいので、見舞いに行ってからかれこれ一ヶ月はリアルで会うことがなかった。 「そう言えばさ、快人たちってこれからどうすんの?」  ミーティングを終え、光輝はチャットでの参加だったのでそのまま離脱し、ファミレスにいた俺と淡路と張本でメシを食っていたらそう訊かれた。  俺はてっきり俺らがセラータに残留するかどうかの話でもされているのかと思って、「どうって、いままで通りだよ」と軽くムッとして応えると、張本は目を丸くしている。 「え、やっぱお前らってそういうことになっちゃったわけ?」 「そういう事って、なに」 「いや、ほら前世から愛し合って~とか言ってたじゃん」 「あー……えーっと……」  確かに先日の見舞いの時にお互いの想いを伝え合って確かめることは出来たけれど、あれをそのまま真に受けていいのかが正直わからないところだ。なにより、それを張本たちにどう伝えればいいのかもわからない。  俺が口籠っていると、ハンバーグを大きな口を開けて食べている淡路が咀嚼しながら言葉を補足してくる。 「そういう事って言うかさ、あのー、ほら、あいつ……八木田だっけ? あいつももう捕まったからさ、一応もう心配はないわけじゃん? だからもう一緒に住んだりしなくてよくなったのか、って思ってさ」 「一緒に住まなくていいかって言うか、いま光輝は実家戻ってるし……」 「いまは、だろ。そろそろ復活できるってこの前もグループで言ってたんだからさ、どうすんのかなって思って」  光輝が退院してから、薄々ちゃんと考えなくては思いつつも俺が避けてきたことを、淡路がいきなり摘まみ上げて突き付けてくる。  避けていた現実の考えなくてはいけない事柄を前に、俺は子どものように唇を尖らせて顔を背けてしまう。 「知らねーよ。あいつから何も言ってこないし」 「ふーん……まあ、もう同棲は解消って感じ? 光輝もこのまま実家に戻るのかな」  淡路の言葉は俺があえて見ないようにしていた事実を指していて、俺は口に運びかけていたパスタを持つ手が停まる。  荷物をいつか取りに来ることはあるにしても、また光輝が俺と暮らし始めるかはわからない。確かに俺らは互いの気持ちを確かめ合いはしたし、あれに偽りがあるとは思えないけれど……でも、いままでの暮らしが続くかどうかの補償にはならない気はする。  現にそもそものきっかけであった八木田は捕まってしまったのだから、当面の危機は回避されたとも言える。  光輝は俺を好きだから、このまま一緒に暮らしてくれるはず――それがただの俺の思い過ごしであったらどうしよう……そんな不安がいま突如湧いてきた。 「快人? どうした?」  張本に声をかけられ、俺は曖昧に笑ってパスタを食べ始めたけれど、それはちっとも味がしなかった。
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