*2 夢の中の忠告と末路を知る自分

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「……シデーリオ様、お願いですから、あの男の指名をもう断って下さい。俺の心配しすぎならそれでいい。でも、あの男はいままでのやつとは様子が違う気がするんです」  シデーリオの方を振り返りながらそう訴えかけてくるオルゴーに対し、シデーリオはムッとした顔をして忌々しそうに言い返す。 「お前は預言者か占い師なのか、オルゴー。いままでだってどうにかしてきたんだ。どうにかなるよ」  ベッドから立ち上がったシデーリオは鼻先で嗤いながらオルゴーに近づき、何か妙だという客の男から距離を取るように忠告するその厚い唇にそっと口付ける。  薄っすら紅の付いた口許がおかしくてそこを撫でてやると、オルゴーはたちまちに赤くなっていく。どうやら彼はかなりの奥手のようで、シデーリオはそんな彼をからかうことを楽しんでいる。 「店一売れっ子の俺が、一小間使いのお前の忠告を聞けると思ってるのか?」 「ですが、シデーリオ様! 本当にあの男は、あなたを手に入れるためなら、何でもやりそうじゃないですか」 「はいはい、坊やの忠告は有難く受けておくよ」  するりとあごの辺りを撫でながら離れていくシデーリオを、オルゴーは名残惜しそうに縋るように見つめ、離れていく妖艶な口付けの感触を味わっている。  ――バカだな、そんな顔していたらますますシデーリオにいいようにからかわれるだけなのに……俺はそんなオルゴーの表情を見つめながらそんなことを考えてしまう。  シデーリオが考えているであろうことが、手に取るようにわかるのは、俺が彼に近しい関係にあるからなんだろうか。でも、どう見ても彼は欧米系のようなルーツを持つ顔立ちだし、名前だし、何より娼館にいるという。  俺の家系に海外、それも欧米の方に縁があるような親族がいると聞いた憶えもないし、何よりいまの俺と似ても似つかない容姿だ。  共通していることがあるとすれば……身体を売っていることと、いまの夢には出てこなかったけれど、歌が上手いことだろうか。  それに、オルゴーのような大柄でたくましい体つきをした男の知り合いも親族も身近にいた覚えがない。  もちろん、こう言ったキャラクターの出てくる映画や漫画やアニメ、小説でさえも見たことはないし、俺にそういった(たぐい)のものを作ったり想像したりする趣味もない。  だから、どうしてこのシデーリオとオルゴーとやらの夢をたびたび見てしまうのかがわからないのだ。それも、実際にいま体験しているようなリアルさで。 (まるで記憶をたどっているような感じなんだよな……知っているものを、繰り返し見返しているような)  忘れてしまった映画を繰り返し、それもこれ以外にもいろいろなシーンをバラバラに見させられているような夢を、時々見る。その理由がわからないまま、もう何年も経っている。  夢の部屋の中で、俺が一番リアルさを覚えるシデーリオが、赤い顔をしてぎこちなく廊下へと出て行くオルゴーに手を振って笑う。  オルゴーがまだ心配そうにしながらも部屋を出て行くのを、シデーリオは甘く微笑んで見送る。この夜からしばらくしたのちに何が待ち受けているとも知らずに――  何度もこのシーンとあの痛く苦しい最期のシーンを見てきた俺は、彼らの姿を見るたびに何とも言えない複雑な気分になるのだった。
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