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――視界に映し出されたのは静かだけれど獰猛さも称えたシベリアンハスキーのような、オオカミのような眼差し。一重の切れ長のそれを持つ彼の名を、俺は無意識に口にする。
「……光輝?」
俺が名を呼ぶと、彼はホッとしたように息を吐きやさしく頬を撫でてくれた。その手の感触が懐かしく愛しく、俺は頬ずりするように寄せていく。
目を開けると、部屋の中は薄暗く、窓の外はどうやら日が暮れているらしい。俺はどれだけ意識を飛ばして……そもそもどれだけ光輝とセックスしていたのだろうか。
覚えたての十代じゃあるまいし……と呆れかけて、そう言えば光輝はまだ十九だし、今回が初めてだったなと思い出し、いまの動けないほどの甘い疲労感を俺は妙に納得した。
光輝は目に見えてしょ気ていて、まるで叱られた飼犬のようだ。
その姿がおかしくてもう一度光輝を呼ぶと、しゅんとうな垂れたまま光輝が近づいてくる。
「……すみません、俺、調子に乗り過ぎました」
「まあ、初めてだって言う割にかなり激しかったよ、光輝」
「すみません……だってすごく、快人さんが気持ちよくしてくれるから……つい……」
素直すぎる言い訳に俺は笑いながら光輝を抱き寄せる。愛しさがあふれて涙が出てとまらないから。
こんなに全身全霊で愛してくれる相手が現れるなんて、思ってもいなかった。愛すれば愛するほど相手はいつも逃げてしまうか、愛したくない妙な奴に言い寄られるかの両極端な人生だったから、前世からのきっかけで俺を見つけてくれた光輝の存在が、掛け替えなくて仕方ない。
「……愛してる、光輝。ずっとずっと、こうしてよう」
再びこうして巡り会えたのはきっと運命か何かで、俺と光輝は互いが互いでしか補えない唯一無二の存在なんだろう。その奇跡をようやく俺は目の当たりにしたのだ。
光輝もまた俺を覆うように包み込んで抱きしめ、「俺も同じです、快人さん」と囁く。
低く甘い声が耳元から全身に駆け巡り、今まで感じたことのない幸福な気持ちに包まれる。これが、愛されるという事、愛し合うという事。初めて知る感覚に俺は新鮮な喜びをかみしめる。
「これからはバンドメンバーとしても、パートナーとしてもよろしく頼むな、光輝」
「はい、もちろんです」
「命に代えなくてもいいからな」と俺が付け加えると光輝は苦笑しつつも、「それはどうしようかな」と言う。
だから俺は抱きしめる腕の力を強めて、更にこう告げる。
「お前の命は俺のだし、俺の命はお前のだ。だから、もうそんな簡単に命に代えるような真似、するなよ。一緒に生きていくんだから」
俺が強い口調で言った言葉に腕の中の光輝ははっきりと強くうなずき、「そうですね」と呟く。
それから光輝も俺を抱きしめる力をわずかに強め、耳元に口付けながら囁いた。
「あなたにずっと逢いたかった。逢ってこうして抱き合うのが夢だった……いま、俺最高にしあわせです」
腕の力が緩み、見つめ合ったのは夢の中で見たよりも深い闇の色をした目を、俺は何よりも愛しいと思う。この先何が俺らの前に現れようとも、ふたりを引き離すことは死をもってしても不可能な強いきずなと愛情で結ばれているだろう。
それを確かめ合うように俺は光輝に口付け、光輝もまた俺に口付ける。
見つめ合い微笑んで交わす眼差しは甘く、溶け合うように絡まっていく。
「光輝、またここで一緒に暮らそう」
「もちろんです。明日にでも俺、来てもいいですか?」
答えのわかりきった問いかけをしてくる光輝に、俺はにやりと笑ってこう答える。
「もちろん。いますぐにだって良いよ」
俺の言葉に光輝は一瞬目を丸くし、やがておかしそうに笑う。
ふたりとなって初めて迎える夜は夢の中で見た悲しく悲惨な夜よりも明るくあたたかく、俺らを包みこむような深い色をしている。
そうして俺たちは甘く乱れた姿のまま、いまこの瞬間から始まったふたりの生活のこれからを想い想いに語らいながら夜が更けていくのを眺めていた。
――それ以来、俺も光輝も、あの前世と思われる夢をぱったりと見なくなったと気付いたのは、それからさらに数か月後のこと。
それきり、俺も光輝も互いの昔の名前を口にすることもなくなった。
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