*2 夢の中の忠告と末路を知る自分

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 目が覚めると、俺は自分のいつもの見馴れた部屋のベッドの上にいた。  眠っていたのは幕を張り巡らしたような大きくふかふかな布団の豪華なベッドではなく、うす暗い2DKの部屋のシンプルなシングルベッドで、傍には誰もいない。 「……今日のは、まだ死ななかったな」  そう呟いて起き上がり、俺は渇いた喉を潤しにキッチンへ向かう。小さい冷蔵庫の中に並ぶ炭酸水のボトルを手に取り、開けてひと口飲み干す。  夢を見始めるようになったのはいつからだろう。最初に見たのはあの誰かに刺されて死ぬ間際の夢だった。  あまりにリアルに痛くて苦しくて、起きてからも自分がちゃんと生きているとは思えなかった。手で身体中を触って刺されても出血もしていないことを確認できて心底ほっとしたのを憶えている。 「あの日真面目にオルゴーの話を聞いてりゃ、死ななかったのかもな、シデーリオ」  夢の中から意識が覚めていないわけではないけれど、夢のリアルさが尾を引いてそんなことを呟いてしまう。  シデーリオを想って、妙な客との関係を注意してくれていたオルゴー。彼はきっと、シデーリオを本当に愛していたんだろう。夢で見るたびに、俺はそれを強く感じる。  そして同じくらい、俺もシデーリオのように誰かから、たとえ共に命を落とすことになっても、来世の誓いとやらを交わすほどに愛し愛されてみたいと思ってしまう。  散々な人生だったと思いながらも、命尽きるその瞬間、本当に愛してくれる人と一緒にいられるシデーリオのことを羨ましいと思っている自分がいる。 (それって、俺がシデーリオみたいに売りやっているからかな……状況は全然違うけど)  単純に夢の人物と自分に重なる部分を見出してはみるものの、それが夢を見る理由には繋がっていかない。  どうしてこんな、とてもリアルな感覚の夢をたびたび見てしまうのか、その理由も意味も解らないままだ。  俺への何かの警告? それとも暗示? その割に日々は一応平穏で、俺は売れない歌ばかりを唄っている。  曲が作れるならこういう夢もネタにできるかもしれないな、と思いつつも、誰か、例えばバンドのメンバーに話しても信じてもらえないだろうから、今日もまた半端な時間に起こされて眠いだけだ。  そうしてまた、俺はひとりベッドに潜り込み眠る。  今度は夢も見なかった。
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